プレミアム YEBISU

YEBISU CREATIVE BREW

「藍想う」誕生の軌跡 伝統から革新を生む挑戦者たち

楮覚郎 × 有友亮太

本場ドイツのおいしさを求めて、1890(明治23)年に誕生したヱビスビール。
誕生から130年以上にわたり、ヱビスはビールの魅力と文化を切り拓いてきました。そして2023年、
まだ誰も味わったことのないビールのおいしさや楽しさを探求すべく誕生したのがクリエイティブブリューです。
革新的なビールを生み出してきたヱビス クリエイティブブリューが今回挑戦するのが、藍の栽培から染色、
仕上げまですべて一貫して行う藍師・染師BUAISOUとのコラボレーション。
ヱビスブランドのChief Experience Brewer有友亮太氏と、BUAISOUの代表 楮覚郎氏との共創から生まれた、
「ヱビス クリエイティブブリュー 藍想う」の新境地とは――。
伝統に向き合いながら、革新に挑戦しつづける二人の軌跡をたどります。

INTERVIEW

BUAISOU
代表

楮 覚郎

ヱビスブランド
Chief Experience Brewer

有友 亮太

「古くから大切に
引き継がれてきたもの」
時代を超えて
愛されてきたのには理由がある

――ビール醸造と藍染――どちらも紀元前に誕生し、人々の暮らしとともにある伝統技法ですが、お二人が惹かれた理由とは?
楮:中学時代にファッションに興味をもち、とくに惹かれたのがインディゴ染めのジーンズでした。そこから染色に魅了され、大学では草木染めを研究しました。化学染料はまだ150年ほどの歴史ですが、藍染は世界5000年以上の歴史があり、数千年の時を超えて今なお藍の色が残っているんです。自分が染めた藍が数千年にわたって生き続けるかもしれない――本物がもつ可能性や豊かさに感動して、天然の藍染を極めようと決めました。

日本の藍染の産地を訪ねて出会ったのが、江戸時代から続く阿波藍です。タデ科の藍の葉を発酵させた蒅(すくも)を染料とする阿波の藍染は、独特の美しい藍色で、染めるほどに深みを帯びます。無限に表現できる藍に心惹かれたのです。
有友:私は子どもの頃、考古学者になりたかったんです。楮さんと同じように、古くから大切に引き継がれてきたものに心が惹かれますね。古くから愛されてきた藍染と同様に、ビールも紀元前から人々の暮らしに潤いをもたらしてきました。きっと太古の昔から、人々はビールを飲みながら、笑い、語り合ってきたんじゃないか。時を超えて愛されてきたビールを生み出す醸造や発酵を追究したくなり、この道を選びました。

「もっといいものを生み出したい」
その想いが革新を生み、
やがて伝統となる

――二人とも伝統に向き合い、その最先端に立っていますが、「伝統」という言葉をどう捉えていますか?
楮:伝統という言葉は、じつはあまり好きじゃないんです。限られた人たちが決められた方法を守っていくという閉ざされたイメージがあって。自分たちが目指すのは、引き継がれてきた製法から学びつつ、それを超えるために何ができるかをつねに問い、挑戦していくこと。伝統と呼ばれるものって、「もっといいものを生み出したい」という想いと挑戦の積み重ねでできているのではないかと思います。
有友:伝統って、時を超えて引き継がれる灯火(ともしび)に似ていると思うんです。燃えつづけるには、たえず燃料をくべなければ、火はたちまち消えてしまう。この火を途絶えさせないという作り手の意志と、火の明るさやぬくもりを喜んでくれる人たち――その両者がいて初めて、時代を超えて燃えつづける火になれる。僕らは火を絶やさないにはどうしたらいいか、喜んでもらうにはどうしたらいいかをつねに考え、火を燃やしつづける、そういう場所に立っていると思います。
楮:そこは藍もまったく同じです。自分たちにできることは、自然から与えられたものを最大限生かして、そのときにベストと思える方法で自分たちのやりたいことをやっていくだけですね。

僕は時間と手間をかけて、大変な思いをして何かをつくることが好きなんです。人の手で丁寧につくられたものって、それだけで大切にしたくなる。だから、僕らは畑で種から藍を育てて、発酵させて、染めるまで自分たちの手で行なっています。どれだけ手をかけてきたか、どれだけ良質の材料を使ったかは、手にとってくれた人にはきっと伝わるし、それは使うたびに、時が経つごとに、明らかになっていくはずです。

「好きだからこそ、続けられる」
生み出す苦しみと
楽しみの先にある新境地

――「伝統」から「革新」へ。新しいものを生み出すために大切にしていることは?
有友:楮さんたちの本物を求める姿勢は、私たちのビール醸造にも相通じますね。ヱビスというプレミアムビールのブランドを掲げるからには、手間も材料も妥協せずこだわり抜いてきました。その確固たるブランドを守りながら、クリエイティブブリューという攻めのビールを生み出すのは、非常に楽しくもあり、生み出す苦しみもあります。
楮:新しいものを生み出すまでは、本当に苦しいです。長い歴史でもうあらゆる技法がやり尽されて、もう新しいことなんてできっこないのではと思う日もある。でも、考えに考えて一晩寝て覚めたら、ひらめきが降りる日がやってくるんです。
有友:わかります。ちょっと違う仕事をして頭を切り替えたり、一晩寝たりすると、ふっと降りてくることがある。楮さんがすごいと思うのは「新たな技法をひらめく」「その工程を組み立てる」「試行錯誤して完成させる」――この3つを見事にやり遂げて唯一無二の作品に昇華させていること。そばで見ていて感動しました。
楮:全部同時進行で、失敗に次ぐ失敗の連続なんですよ。でも、失敗しなければ、わからないことがたくさんある。その失敗の積み重ねから、ようやく一つの道ができていくんです。
有友:それは好きだからこそ、続けられるんだと思います。私もビールや酵母について調べ出したら止まらない。失敗しても、そこからどう立ち上がるかを必死に考えて次につなぐ。それはもしかしたら幸せな時間なのかもしれませんね。

「“発酵”という自然の力を借りる」
五感を頼りに、
発酵という奇跡をたぐり寄せる

――伝統を引き継ぎつつ、新たな創造に挑戦する二人ですが、さらにビール醸造と藍染には「発酵」という共通項があります。
有友:畑で育てた藍を刈り取り、発酵させて蒅(すくも)になるまで約1年がかりの工程を見学させていただきました。週に1回、発酵で70度近くまで熱を帯びた蒅の山を熊手で切り崩して、酸素にさらして発酵を促す。ビール醸造も1年かけて仕込みや発酵、熟成の工程をたどります。ビールの香りとおいしさをもたらす酵母や微生物のお世話をして“発酵”という自然の妙なる力を借りる。営みとして近いものを感じました。
楮:藍染は、日本のみならず、アフリカ、インド、ヨーロッパ、中国など世界各地で伝承されています。そのなかで阿波藍のように葉を発酵させて蒅をつくる技法は、ごく少ないんです。蒅づくりでは、蒅を寝かせる寝床に藍神様をお祀りします。蒅をつくる藍師は自分たちの作業を全うし、その先は大いなる自然の力にゆだねてきました。その意味では、藍は僕らの努力だけつくれるものではなく、栽培から発酵まですべての過程で、自然の力を借りて成り立っているものなんです。
この蒅に木灰汁、ふすま、貝灰を混ぜて、再び発酵させて染料となる藍液が出来上がります。
そこから生まれる藍色は毎回違う。それが自分は好きなんです。発酵の過程は自分の感覚を大切にしていて、香りや手ざわりなど五感で発酵の進みぐあいを確認しています。有友さんは、ビールの発酵を確かめる際はどうされていますか?
有友:もちろん測定や分析は緻密に行ないますが、最後は人が飲んで「おいしい!」と感じる感覚を大切にしています。「おいしい」と感じる感覚は、味だけでなく、色や香り、のどごしからももたらされます。五感の共鳴からビールを味わうことができるのが、人間の感覚の豊かさなのではないかと思います。
ビール醸造では金属製の釜でビールを発酵させていくのですが、発酵が進むと表面に泡がぷくぷくと立ちのぼってきます。小さな小窓から、その様子を見て「よしよし、よく発酵しているな」と見守り、さらなる発酵を待つ。この時間こそヱビスのおいしさの秘密です。発酵がうまく進めば、ビールにふくよかな香りとおいしさが宿る。醸造師が五感で味わって認められたものだけがヱビスビールとなれるのです。

「爽やかな藍の印象を、
味で表現したい」
藍染と醸造という
共創が織りなすビール

――「ヱビス クリエイティブブリュー 藍想う」という商品名から、どんなひらめきやイメージが広がりましたか?
有友:まず「藍想う」っていい言葉だなと思いました。染師としての楮さんの作業を見学させていただきましたが、藍液に布をゆっくり時間をかけて浸し、そしてまた時間をかけて引き上げていく。まるで瞑想のような時が流れ、まさに藍想う時間でした。

「藍想う」のボディパッケージのために、楮さんが作ってくれた藍染作品は、上にゆくほど藍が濃くなっていく美しいグラデーションで染め上げられています。これまでの藍染では非常に珍しく、楮さんにしか表現できないグラデーションの染色技法ですよね。どうやったらこんなに美しいグラデーションを生み出せるのでしょうか。
楮:ただ機械的に上から下に浸していくだけでは、この流れるようなグラデーションは生まれないんです。染まり具合を見ながら、より濃くしたいところはゆらゆらと揺らして藍を吸い込ませていく。さらに意識を拡大して、藍液の中で生地糸の一本一本に藍が染み込んでいくのを感じとる。おっしゃるとおり、まさに藍想う時間ですね。
有友:藍甕から引き上げた段階では、褐色を帯びたくすんだ色だったのに、空気に触れると、混じりけのない藍が立ち現れてきました。この爽やかで深い藍に出会い、「ビールの味で表現したい!」と思いました。柑橘を思わせるようなホップに、凛とした苦みと香りをまとったビールをつくろうとイメージが広がりました。

「“藍想う”にすべてを
つぎ込もうと決めた」
藍と味わいのグラデーションが
押し寄せる至福の体験

――「ヱビス クリエイティブブリュー 藍想う」に込めた想い、メッセージをお願いします。
楮:今回、ヱビス クリエイティブブリューとコラボするにあたり、僕らがやりたいことを「藍想う」にすべてつぎ込もうと決めました。背景の部分は、命の営みを表す綱の紋様を型染めし、「ヱビスビール」のロゴと「藍想う」の文字は、型染めと呼ばれる技法で表現しています。
有友:BUAISOUさんから、「恵比須様と文字も藍染で表現したい」と提案いただいたときは驚きました。こんなに細かく複雑な絵柄を表現できるのか、と。
楮:僕らにとっても挑戦でした。緻密な絵柄を切り抜いた型を生地に置き、糊を乗せて絵柄を覆うことで、絵柄の部分は藍で染まらず、白く抜くことができます。かつては、型彫師と小紋師に分業されていた高度な技術でもあるのですが、藍染を追求する者として、なんとしても自分たちの手でやり通そうと決めました。
有友:染め終わった生地から糊を洗い流し、福々しい恵比須様が浮かび上がってきたときは感動しました。恵比須様の柔和な表情から釣り竿の細い糸まで繊細に描かれています。また背景となる縄紋の一つひとつが絶妙に違う藍色で、二つとして同じ色はないんですよね。
楮:はい。藍染は染めの回数を重ねることで、藍の濃淡を表現していきます。横に並んだ縄紋は縄ごとに染めの回数が異なるうえ、全体に上下のグラデーションもかけているので、「藍想う」一缶で、何十通りもの藍の色が楽しめるのです。

この藍染作品を画像として取り込み、缶に印刷するのは、僕らにとっても初めての体験ですし、有友さんのようなビールを極めた人と出会い、醸造について学べたのも貴重な体験でした。藍染、ビール醸造とそれぞれが追求してきたすべてを「藍想う」という一つの缶に詰め込むことができた。この経験は僕らの中でもずっと引き継がれていくと思います。
有友:ありがとうございます。私も楮さんと、ものづくりの楽しさ、大変さについて語り合いながら共創できたのは、とてもワクワクする体験でした。新しい世界が広がり、挑戦を続ける新しい仲間が増えた、そんな喜びでいっぱいです。

日本の皆さまには、この缶を手にとり、まずは一つひとつの藍の色の美しさを確かめてほしいですね。そして、自宅や屋外でリラックスしながらこのビールを味わっていただければ、藍の爽やかさや凛とした佇まいと味わいの深いグラデーションが感じられると思います。日本人が愛してきた藍をまとい、その藍の爽やかさを表現したビールが誕生しました。この奇跡のような味わいをぜひ堪能していただければと思います。

PROFILE

BUAISOU代表

楮 覚郎

Kakuo Kaji

1989年生まれ、青森県出身。東京造形大学でテキスタイルデザインを学んだ後、藍染技術の習得を目指して徳島県上板町に移住。地域おこし協力隊として活動した後、2012年に藍の栽培から染色までのすべてを行う「BUAISOU」を発起。2015年には、会社として法人化した。現在は、ジーンズをはじめとしたオリジナルの藍染製品を多数手がけているほか、国内外のブランドとのコラボレーションも実施。グローバルに活動を展開している。

ヱビスブランド
Chief Experience Brewer

有友 亮太

Ryota Aritomo

2012年サッポロビール入社。サッポロビール北海道工場でビール醸造を担当した後、酒類技術研究所にて酵母の研究に取り組む。その後、ドイツへ留学し、Brewmaster(ブリューマスター)の資格を取得。帰国後は新商品開発や研究を行う。「YEBISU BREWERY TOKYO」の醸造を担当。

取材・文 |麻生泰子
撮影|本吉孝光