想いをつなぐ 醸造家対談
グランポレール20年のバトン、引き継がれる想い

グランポレールの栽培責任者として2009年に安曇野池田、2018年に北海道北斗と2つの新しいヴィンヤードを拓いてきた野田雅章。安曇野池田ヴィンヤードを引き継ぎ、日本ワインコンクール2023で金賞を受賞するまでに育て上げた石原大輔。
グランポレールの栽培責任者として2009年に安曇野池田、2018年に北海道北斗と2つの新しいヴィンヤードを拓いてきた野田雅章。
安曇野池田ヴィンヤードを引き継ぎ、
日本ワインコンクール2023で金賞を
受賞するまでに育て上げた石原大輔。
ふたりの栽培家が考えるグランポレールの魅力、
産地との関わりなどについて語り合って
もらいました。

パイオニアが抱く「ぶどうづくりの信念」を引き継ぐ

写真:野田雅章氏
野田
石原さんと初めて顔を合わせたのは、2010年の秋、岡山ワイナリーに行った時かな。私は安曇野池田ヴィンヤードから勝沼ワイナリーに異動する狭間で、研修に来ていた石原さんと3カ月ほど一緒に過ごしたと記憶しています。
石原
いえ、実はその少し前にお会いしています。私は2010年に入社し、夏に安曇野池田を見学に訪れたのですが、そのとき案内してくださったのが野田さんでした。当時の私にとって、野田さんは恐れ多いくらい「すごい人」。近寄りがたいイメージすらあったのですが、帰りの電車に乗るときに缶ビールを買ってくださり、その場で乾杯したんです。そこで「いい人だなぁ」と、印象がコロッと変わりました(笑)。
野田
すみません、その日のことは覚えていません(笑)。でも、私は石原さんのチューター(教育係)になったので、岡山ではいろいろ話をしたし、よく覚えていますよ。元気で朗らかで、ちょっとうるさいヤツ、という印象でした。私自身は口数が少ないタイプなので、「ちょっとは黙ってろ」と思ったこともありますが(笑)、元気があっていいな、と思ったのは本当です。
その後は同じ事業所で働く機会がありませんが、石原さんの成長はずっと見守っているし、頼もしく思っています。いつも朗らかで周りを穏やかな雰囲気にしてくれますが、仕事に対しては真面目で、常に真剣に取り組む姿勢が素晴らしい。この先グランポレールを背負ってゆく栽培家として大いに信頼し、期待もしています。ただ、妙に細かすぎるところがあるので、もう少し大雑把な捉え方をした方がいい仕事ができるのでは、と感じることはありますね。
写真:石原大輔氏
写真:石原大輔氏
石原
そうなんです。細かいことが気になっちゃうので、もう少し大らかに考えられるようになりたいですね。
野田さんは、自社畑を拓き、契約農家を増やすなど、グランポレールのぶどう栽培に関してはパイオニア的存在です。「ぶどうのことなら何でもご存知」というイメージがあるので、尊敬しているし、今でもしょっちゅう電話して相談にのっていただいています。とくに尊敬するのは、ぶどうづくりに対して信念を持たれているところです。品質にこだわり、知識や技術の研究を怠らず、栽培農家の皆様との信頼関係を大事にする。本当にすごい方だと思っています。

ぶどうづくりの信念とは?

野田
ぶどうの品質とワインの品質が関係しているのは当たり前ですが、必ずしもイコールではありません。私たち原料部門としては、ぶどうを収穫した時点で一旦区切り、状態を評価します。その際、評価の第一義は健全であること。酸度や糖度など分析値で品質を評価する前に、病気がなくキレイなぶどうであることが第一です。品種特性や産地特性は、健全なぶどうをつくっていけば自ずとついてくるものだと思っています。まずはきちんと栽培して、完熟した健全なぶどうを収穫することを目指す。それがしっかりできたら、その上で自分なりの技術をプラスしたり、隠し味的に何か加えることができたらいいな、と思っています。 
石原
私も同じ思いです。まずはぶどうを健全に育てることが第一だと思っています。健全に育てることができれば、品種の個性や土地の特性などが引き出せると思っているので、まずは健全に育てることに注力してやっているのですが、これがなかなか難しくて…。自然が相手なだけに、なるようにしかならない面もあるので、栽培家の仕事は「言うことを聞かせる」というより「ぶどうが輝くようにサポートする」という感覚ですね。

土地の環境を整え、 新しいヴィンヤードを拓く

写真:野田雅章氏
野田
新しいヴィンヤードを拓く仕事は大変ですが、栽培家としては素晴らしい経験です。安曇野池田ではすべてが初めてのことだったので、今から振り返ると「なぜあんなことをしてしまったのか」と思うような失敗も数々あります。後を引き継いだ石原さんにはその尻拭いをさせてしまったようで、本当に申し訳ない。ここまで立派なヴィンヤードに育ててくれてありがとう、という気持ちです。
石原
野田さんはゼロから立ち上げたわけですから、本当にすごいですよね。ぶどう棚の建て方はもちろん、外周道路の道幅や作業スペースなどの設計も、実際にやってみないと分からないことばかりですから。今の自分にやれといわれても、とてもできるとは思えません。
野田
土壌改良や整地、排水設計など、ぶどうを植える前に考えるべきことはたくさんあります。その意味では、安曇野池田で得た経験とノウハウは、北海道北斗で活かすことができました。とはいえ、北海道北斗は降雪地域で、かつ10〜20度の急斜面にあるため、新たな課題がたくさんあります。それらを北海道北斗のメンバーと一緒に考え、苦労しながら新しいものをつくり上げてゆくのは、とても楽しい作業です。栽培家としてやりがいのある大きな仕事なので、石原さんにもぜひ経験して欲しいと思っています。
現在の北海道北斗はまだ100%とはいえませんが、2023年に初めて出荷したワインは、初回としては出来過ぎなくらい満足のいくテイストに仕上がりました。まだこれから6品種のぶどうが出てくるわけですが、良いスタートが切れたと思っています。
写真:石原大輔氏
写真:石原大輔氏
石原
野田さんが立ち上げてから14年。私が引き継いだ安曇野池田ヴィンヤードも立派に育ってきました。品種の特性も出てきたし、畑ならではの個性も出てきたので、これからが楽しみです。同じ長野県内の長野古里ぶどう園と比べてみると、同一のぶどう品種を植えても全く違う個性が出来てきます。その個性を壊さないように育て上げるのが私たちの仕事であり、お客様にはその違いをワインで楽しんでいただきたい。そしてそれが、グランポレールの魅力になると思っています。

その「グランポレールの魅力」について聞かせてください

石原
幅広い産地と多彩なぶどう品種があり、お客様に多様なワインを楽しんでいただけることです。確かな技術があり、品質が安定していることはもちろんですが、それぞれの産地に歴史があり、ワインに物語があることが魅力だと思います。
野田
幅広い産地や品種の特性が楽しめるのは、間違いなくグランポレールの魅力です。ただ、つくり手である私たちはそのことを知っていますが、残念ながらお客様にその魅力を体感していただく機会はまだまだ少ないかもしれません。余市、北海道北斗、長野古里、安曇野池田、山梨、岡山。お客様にすべてのグランポレールを味わっていただき、その違いと魅力を感じていただけたら、と思っています。
石原
確かに。一般のお客様で、グランポレールのラインナップをすべて飲んでいただいたことがある方は、なかなかいらっしゃいませんよね。
野田
自分たちの中で新しい技術を育て、伝承してゆくことも大切ですが、もっと外に向けて発信していくことも必要だと思っています。

グランポレール20年の蓄積、その先へ

写真:野田雅章氏と石原大輔氏
野田
グランポレール誕生から20年。いろんなことがありましたね。
石原
僕でもいろいろあったのですから、野田さんなんて本当にいろいろご経験をされたのでしょうね。
野田
もちろん。いい変化もあったし、うまくいかずに撤退したこともありました。いろんな変遷を経て今のグランポレールがある。そうして蓄積された技術や経験、想いなどを残さず受け渡したいと思う一方で、石原さんたちには「過去にこだわって欲しくない」という想いもあります。20年の蓄積をベースにしつつ、次世代の技術者が自分たちの想いをのせて新しいぶどうづくり、ワインづくりに挑戦して欲しい。極端な話、今までのものはすべて捨ててしまってもいいと思っています。
石原
私は20年の歴史をすべて知っているわけではありませんが、試行錯誤の連続だったことは想像できます。それらを経て今のグランポレールがあることを誇りに思っているので、今後はそれらをさらに深化させたいですね。幅広い産地や多様な品種。その特徴に対する理解を深め、それぞれの良さを引き出す技術を磨いていきたいと思っています。そのためには、もっと様々な産地や品種、栽培方法などを学ぶことが必要で、それがグランポレールに対する理解を深めることにつながると考えます。私はまだ安曇野池田しか知らないので、ここでの技術を高めるためにも、他の産地のことをもっと知りたいですね。
野田
産地を幅広く知ることは栽培家としての成長につながると思います。実際、私はグランポレールのすべての産地をまわりましたが、広く深く知ることで、どんなことにも臨機応変に対応できるようになりました。
石原さんはすでに、自社のヴィンヤードだけでなく、長野県内の栽培農家の皆様とお付き合いを深めていると思いますが、今後は余市や岡山、山梨にも対象を広げて関係者と向き合うことも重要です。グランポレールの栽培責任者にとってはこれも大切な仕事なので、よろしくお願いします。
石原
幅広い産地をまわり、栽培農家の皆様や関係者と関わらせていただくことで、栽培家としての引き出しを増やしていきたいと思います。

良いぶどうをつくることで、 地域を活性化

写真:ぶどう
石原
一方で、ひとつの産地に長くいると、地域とより深く関われるというメリットがあります。近年は、安曇野池田の周辺でもワイナリーが増えてきました。良いぶどう・良いワインをつくることができれば、その地域が盛り上がり、地域活性化に貢献できる、という側面があると思います。さらにコンクールで賞を受賞したりすると、ワインづくりやぶどう栽培が魅力的な仕事であることが伝わり、さらなる地域活性化につながるかもしれません。
野田
北海道北斗が位置する道南地区は、ワイン産地としては今まさに産声をあげたところです。新しい生産者が集まり、一緒にやり始めたばかりなので、いいワインの産地として世間に認められている訳ではありません。そんな中、これからみんなで協力して産地を盛り上げ、ワインの銘醸地に育てていこう、という機運が高まっています。これもまた、とてもやりがいのある仕事です。
石原
野田さんは先ほど「20年の蓄積は捨ててもいい」とおっしゃいましたが、20年の蓄積ノウハウは価値あるものなので、それはそれで大事にしたいと思っています。これまでの蓄積を知った上で、大事に守りたい部分があり、進化あるいは深化させたい部分が出てくるのではないでしょうか。その中でも特に、栽培農家の皆様との信頼関係は重要だと感じています。みなさんに良いぶどうを供給していただいていることを、グランポレールは忘れてはいけません。その点も深化させ、ワイナリーとも気持ちをひとつにしてワインづくりをしていきたいですね。
野田
ワインに均一な品質を求めることは難しいし、たとえできたとしても、それが面白いとは思えません。グランポレールは日本ワインです。フランスやカリフォルニアの真似をするのではなく、日本の食事や文化、シーンに合ったワインをつくることが大切なのだと思っています。
石原
同じ品種を植えても、地域によって、生産者によって全然違いますよね。日本の産地で生産者としっかり向き合うことは、ブランドコンセプトである「想いをつなぐ」ことにつながるし、それはまさに、私がやりたいことと合致しています。
さらに、まだお客様に伝わっていないグランポレールの魅力を、もっと広めたいと思っています。多彩な産地、味わい、楽しみなどをもっと発信していきたい。
野田
やることがいっぱいあるね。
石原
風呂敷を広げすぎちゃいましたね(笑)。
野田
いえいえ、頼もしいですよ。これからも頑張ってください。
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その一本に無数の物語が紡がれてゆく。想いをつなぐ日本ワイン グランポレール GRANDE POLAIRE
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