想いをつなぐ 醸造家対談
グランポレール20年のバトン、引き継がれる想い

チーフワインメーカーとしてグランポレールを牽引してきた工藤雅義氏,その熱い想いを引き継ぎ、さらなる進化を目指す多田淳氏
「グランポレール」は、2023年、
誕生20周年を迎えました。
チーフワインメーカーとして
グランポレールを牽引してきた工藤雅義。
その熱い想いを引き継ぎ、
さらなる進化を目指す多田淳。
彼らが考える日本ワインの在り方、
そしてグランポレールが目指すものについて、
語り合ってもらいました。

20周年、それぞれの挑戦

写真:工藤雅義氏

お二人それぞれの原点について聞かせてください

工藤
私は1991年から94年までカリフォルニア大でワイン醸造学を学び、2003年のグランポレールの立ち上げからワインづくりに取り組んできました。その時から、20年、グランポレールとして、美しい日本の風土を活かしたワインづくりを実現するためにどうすれば良いか、問い続けているような気がしています。
多田
私がワインの世界に入ったのは2013年のことです。右も左もわからなかった私にとって、当時の工藤さんはすでに雲の上の方(笑)。圧倒的な経験値をお持ちで、必要なことはしっかり伝えてくださるので、今も毎日のように相談させていただいています。
工藤
現在私たちが名乗っている「ワインメーカー」という呼称は、カリフォルニアで一般的に使われているもので、ぶどう栽培から醸造までワインづくりのすべての工程に携わる職務を指します。けれど当時、日本のワイナリーでは、栽培担当者と醸造担当者の仕事が分かれている場合がほとんど。でも私は、栽培と醸造をひとつの流れの中で見ることが大切だと考えていたので、2004年に醸造担当者として勝沼ワイナリーに着任した際、ぶどうの収穫時期を私に決めさせてもらうようにしました。
写真:多田淳氏
写真:多田淳氏
多田
私は2017年からボルドーに留学し、醸造はもちろん、ぶどう栽培についても理論的に学びました。フランスボルドーはシャトーの文化、つまりぶどう畑と醸造場が物理的に近く、ワインづくりは畑から既にはじまっています。よいワインをつくるには栽培の知識は必須なのです。
理論はしっかり学んだとはいえ、実際にワインづくりに携われるチャンスは一年に一度だけです。しかも毎年予想外の事態が起こるのが当たり前の世界ですから、よいワインメーカーになるにはひたすら経験を積み、どんな状況にも対応できるスキルを養うしかありません。その意味では、2003年の立ち上げからグランポレールに携わってきた工藤さんは、その経験をお持ちの大先輩です。今必要なこと、そして将来やるべきことなど、お話ししながら勉強させていただいています。
工藤
お互いワインの本場で学んできたとはいえ、理論どおりにいかないのがワインづくりですよね。大切なのは、基礎がしっかりとあった上で目の前の状況を的確に把握し、改めて理論に当てはめてみるという柔軟な考え方です。その点では、多田さんの経験値はすでに十分。私がカリフォルニア大で十分に学べなかった、テイスティングの訓練を積んでいることにも期待しています。
多田
ありがとうございます。ボルドー大ではテイスティングのトレーニングが必修だったので、本当に鍛えられました(笑)。
テイスティング力は、生来の素質として備わっているものがあるかもしれませんが、それはあくまで基礎レベル。どんなものを食べて育ってきたのか、というバックグラウンドや、食に対する興味なども重要だといわれています。フランスの「テロワール」という概念を学ぶためには、自分たちのワインを知り、それを表現することが大切だと教わりました。
工藤
感じる力はもちろんだけど、それを表現する能力が素晴らしいと思っています。
それともう一つ、多田さんが私と違うのは、何事もきっちり決めないと気が済まないところかな。
多田
前職場がビール工場だったからかもしれません。ビールは基本的に乾燥した穀物を原料として安定的に均一な味に仕上げることが命題なので、細かく決めた工程をシステマチックに進めることが重視されます。それに対して日本ワインの原料は新鮮な果実で、求められるのはぶどうの個性を活かした味わいです。発想が根本的に違うので、かつての殻を破ることも必要かもしれませんね(笑)。
工藤
細かいことがいい面もあるから、それはそれで活かしてください(笑)。
写真:多田淳氏
写真:多田淳氏

ワインづくりに対する考え方は地域によってずいぶん違うのですね

多田
そうですね。でも、ワインづくりの根底にある想いは一緒だと思います。だから工藤さんと意見が割れることもありませんよね(笑)。
工藤
それはどうでしょう?(笑)。我々が相手にしているのは、日本の風土で育ったぶどうであり、カリフォルニアのぶどうでも、ボルドーのぶどうでもありません。大切なのはぶどうの声に耳を傾けること。だからワインづくりのメソッドが多少違っても問題はない。むしろ、多様な考え方があることが強みになると感じています。
多田
ヨーロッパの国々から見たら、日本はカリフォルニアと同じ「ニューワールド」です。カリフォルニアがボルドーと違うマーケティングで挑むなら、私たちも独自のコンセプト等を常に考えていく必要があると思っています。その中で現在たどり着いたひとつが「美しい日本の風土を活かしたワインづくり」ですね。

味わい・香の多彩さがグランポレールの魅力

写真:工藤雅義氏

改めて、グランポレールとはどんなワインですか?

工藤
グランポレールは、北海道、長野、山梨、岡山と4つの産地を有しています。北海道ならピノ・ノワールやケルナー、長野ならカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネ、山梨では甲斐ノワールや甲州、岡山ではマスカットベーリーAやマスカット・オブ・アレキサンドリア。これだけ幅広いぶどう品種を揃えられるワイナリーは希有でしょう。
多様な産地を持っていると栽培できるぶどうの種類も多くなり、その結果、さまざまな味わい、香りのワインをお客様に提供できる。それがグランポレールの大きな特長です。
多田
そもそもワインは多様性のあるお酒なので、お客様に訴求できるポイントも品種や産地、ヴィンテージなどさまざまです。そんな中でグランポレールは、4産地それぞれに適切なぶどう品種を植えることで、お客様の多様なニーズにお応えしています。さまざまなぶどうを扱うことに苦労がないと言ったらウソになりますが、キャンバスが広いほど自由に絵を描けることは間違いないので、多様な品種・産地があるのは大きな魅力だと考えています。

ぶどうの力を100%引き出す

写真:多田淳氏

ワインメーカーとしての喜びとは?

多田
ぶどうづくりもワインづくりも、1年2年でできるものではありません。10年20年かけてやっとわかることがたくさんあり、それでもなお完成形ではない。樹の成長がそうであるように、先輩たちが残してくださったものですら変わってゆきます。だからこそ、次の世代へとつなげてゆくためにも、栽培方法、醸造方法を常に探求し続けることが大事なのだと感じます。
その一方、短期的な視点で考えると、お客様のニーズや外部環境は日々変わっているので、そうしたものへの対応力も欠かせません。本当にチャレンジングでやりがいのある仕事ですね。
工藤
工業製品は決められた規格どおりにつくることが大切ですが、ワインの場合は年ごとに気候も変わるので、前年に確立した方法が翌年通用するとは限りません。それでも我々は、どんな年でもぶどうの力を100%出してやらなくてはいけない。それがワインメーカーの仕事であり、そのためには知恵と工夫と観察力が必須です。
多田
例えば、同じピノ・ノワールという品種でも、北海道の余市と長野県の安曇野池田ではキャラクターが違いますよね。にもかかわらず、同じつくり方でぶどうにアプローチしたのでは、それぞれのポテンシャルを活かしたワインはつくれません。余市には余市のぶどうに合った栽培と醸造方法があり、安曇野池田にはその特性を見極めた方法があるはずです。産地だけ考えてもそうなのですから、年によってワインづくりが変わるのは当然のことと思います。

産地の特性に合ったワインづくりを追求

写真:工藤雅義氏、多田淳氏
工藤
この20年で印象的だったのは、安曇野池田の立ち上げに際して、畑に植えるぶどう品種を自分で決められたことです。ぶどうの樹は一般に20年以上もつので、20年間仕事をしたとしても、その間にぶどう品種の選定からワインづくりに取り組めるとは限りません。自分で選び、苗を植えたぶどうからワインをつくれたことは、本当に幸運でした。
多田
4産地のぶどうでつくるワインの特性をしっかりと理解し、それに合ったワインづくりを探求し続けることが「美しい日本の風土を活かしたワインづくり」につながるのだと思っています。その産地で育ったぶどうが持つ個性とは何か。適切な栽培方法がとれているのか。産地の気候、地形や土壌についてももっと追求し、常に新たな視点からワインづくりに取り組むことが大切だと思っています。
工藤
安曇野池田の畑についていえば、最初の5年と次の5年、そしてこれからの5年でもぶどうの特性は変わります。常にぶどうを見て、その特性に合わせてつくり方も変えてゆく。それが私たちの仕事ですから。
現在私たちは、ワインメーカーとして栽培と醸造の両方に関わっています。多田さんに期待するのは、グランポレールの中でぶどう栽培とワインづくりの距離をさらに近づけることですね。その時にこそ、私たちが追い求めてきた、真の「美しい日本の風土を活かしたワイン」が実現できるのではないでしょうか。
多田
確かに「グランポレール」を冠するためには、それぞれの風土を活かしたワインであることが必須ですから、ぶどう栽培とワインづくりの距離は重要ですね。4産地の理解を深めながら、ワインづくりを並行して考えてゆく。追求し続けるべきことは山ほどあり、それらを探求する中で、ワインが劇的に変わってゆくことがあるかもしれませんが、それはそれで間違いではない。これまでのものが100%だったのか、と常に自戒しながら、さらにその先の可能性を信じて、新しいグランポレールをつくっていきたいと思っています。
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その一本に無数の物語が紡がれてゆく。想いをつなぐ日本ワイン グランポレール GRANDE POLAIRE
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