meets TAITTINGER

Florilége × Mitsuyo Kakuta

Vol.2 シャンパーニュととくべつな一ページ。

[NEW PAIRING OF CHAMPAGNE・Florilége/東京都渋谷区]

廊下を歩いて店内に入ると、オープンキッチンが舞台のセットみたいにうつくしく広がっている。シックでありながら華やかなそのキッチンに入るのに、ちょっとした勇気がいる。

今日いただく料理はアンディーブのミルフィーユとアイスクリームの二部構成だと聞いていて、事前にレシピも説明してもらっていたのだが、じつは何も思い描けずにいた。川手寛康シェフが発酵したアンディーブの芯を取り除き、葉、一枚一枚のあいだにトリュフを挟んでいく。手際よく進めているけれど、ものすごく細かい作業だ。それを蒸して半分にカットし、皿に盛る。一枚の絵画のように印象的なうつくしさだ。

  • 川手シェフが「テタンジェ」のトップキュヴェ「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」に合わせるために考案した料理は「発酵させたアンディーブのミルフィーユ 2部構成」。2部構成の意味は下記にてお楽しみに!「今回のテーマは“複雑さ”です。味の複雑さ、香りの複雑さ。それを足し算するのではなく、掛け算をし、更に、どうアクセントを加えられるかが重要かと思っています」と川手シェフ。
  • 発酵したアンディーブを蒸し、一度その発酵を止めることによってベストな味わいに。「独特な香りですよ」と言う川手シェフに勧めれ、香りを嗅ぐ角田さんは、思わず「おー!」っと唸る。しかし、「この時点では、味の想像がつきません(笑)」と言葉を続ける。
  • 発酵したアンデイーブの葉を一枚一枚丁寧にめくり、たっぷりとトリュフを挟んでいく川手シェフ。その仕事を見ながら「まるでキムチみたですね!」と角田さん。挟むことによってトリュフはアンディーブに香りを纏わせ、同時に余分な水分を吸う役目も果たす。
  • アンディーブの芯を切り落とし、ふたつに切った断面。それを見て「すごく綺麗!」と角田さん。トリュフと形成する黄・緑・白・黒の層が美しいそれは、まるで植物のような不思議な雰囲気が漂う。「ちなみに、芯はまた別の料理にしますのでお楽しみに!」と川手シェフ。
  • 開放的なキッチンにて、今回のメニューのポイントを角田さんに説明する川手シェフ。上記の通り、「複雑さ」をテーマにしたそれは、調理過程もまた複雑。
  • アンディーブを漬物のように発酵させ、味わいも香りも複雑に。「その複雑さがテタンジェのトップキュヴェ、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランに合う」と川手シェフ。この時点で発酵は5日目。「漬け込みすぎず、まだまだ菌が元気な状態で発酵を止めるのが良い」。

アンディーブにはゴルゴンゾーラチーズのソースをかけ、薄い輪切りのレモン、酢漬けにしたフェンネルの花、コリアンダーの花、ハーブをあしらう。この花は、よくよく見ないとわからないくらいちいさい。もう一品が、さっき取り除いたアンディーブの芯とヨーグルトをピュレ状にしたアイスクリームだ。

けっこうたくさんのトリュフが使われているのに、香りは控えめで、アンディーブのほろ苦さとうっすらとした甘みを引き立てる。そしてこの料理、切り分けた一口に、ソースをどのくらいつけるか、酢漬けの花をいっしょに食べるか否か、皿の端の塩をつけるか否かで、一口一口の味がまったく異なる。トリュフのかぐわしさはシャンパーニュの香りをけっして消さない。一口食べたあとにシャンパーニュを飲むと、キリリとした強さを感じる。ふたたびアンディーブを食べると、さっきとは違う奥深さが生じる。アイスクリームはやわらかい酸味があって、これもまたシャンパーニュと合う。

  • 合わせるのは、ブルーチーズと白ワインのソース。「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランは、香りの中にハチミツのような甘さがあると思います。ブルーチーズとハチミツは相性が良いので、そこも感じて頂ければ」。ソムリエの資格も持つ川手シェフらしい考察の妙。
  • フェンネル、ディルの花、人参の花、コリアンダーの花と種を自家製ピクルスにし、料理のアクセントに。「酢漬けにすることによってそれぞれの個性を引き出します」と川手シェフ。
  • 上記のひとつ、コリアンダーの種のピクルスを試食する角田さん。「こんなに小さいのに味の個性がしっかり! しかも、ちゃんとその奥にコリアンダーの存在と香りが残っているのがすごいですね!」。
  • 一見、何の素材を使用してどんな料理なのかが全くわからない容姿もまた、川手シェフの表現の特徴。ナイフを入れながら「料理にドキドキする……」と角田さん。
  • 上記、「アンディーブの芯はまた別の料理に」とあったそれは、アイスクリームに!ペースト状にしてヨーグルトと合わせ、アカシアとニセアカシアの花をシロップとともに発酵させ、アカシアのハチミツを混ぜ合わせたソースを添えて提供。料理名にもある「2部構成」の2部目の品。「これもまた変わった味!」と角田さんも驚愕。「料理をしていると端材が出てしまうことがあります。ふた皿構成にする手法を取り入れてからは、食材を無駄なく使用でき、かつ味の広がりを演出できるようにもなりました」と川手シェフ。
  • コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランは、独創的な料理の味に落ち着きを与えてくれると思います。これまで体験したことのないペアリング」と角田さん。
  • 「通常、シャンパーニュの温度は8℃か9℃。しかし、コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランの場合は、10℃~13℃の方が味と香りが開き、料理とのバランスも良いと思います」と川手シェフ。

テタンジェの個性は「複雑さ」だと川手さんは言う。だから、複雑さに複雑さをかける料理として、このアンディーブを選んだ。足すのではなく、かける。たしかに、ペアリングすることで未知なる世界が広がっていく感覚になる。

それにしても、この味を説明するのはむずかしい。味も香りも食感も独特で、比喩として使える料理が思いつかないのだ。しかも、食べ進めるごとに、シャンパーニュと合わせるごとに、変化していっていっこうに固定されないので、「こういう味だ」と言い切ることができない。

  • おいしい料理とシャンパーニュはふたりを笑顔に。「どうやったらあんなに美しくて食べたことのないような味を創造できるのですか?」という角田さんの問いに対し、「パッとひらめくようなことはありません。何度も考えて、何度も試作して。ひとつの料理のために何十時間と費やし、ようやく完成するような地道な作業です」と川手シェフ。
  • 「今回の料理は、主役から脇役までの演者が多いメニューですが、ちゃんとひとつにまとまりコント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブランにピタリと合わせるのは、さすが」と角田さん。更には、「アンディーブに添えたピクルスやブルーチーズのソース、アイスにかかるアカシアのソースの具合によって味が様々変化するので、この感覚を言語化するのは難しい」と話す。
  • 料理の複雑な味を何とか言葉として手繰り寄せようとする角田さん。川手シェフの解説にも真剣に耳を傾け、気になる言葉は全てメモを取る。

フロリレージュはフランス料理店ではあるが、川手さんはクラシックなフランス料理にはこだわっていない。クラシックなフランス料理とは、たとえてみると、たくさんの食材をぐっと煮詰めて作るソース。けれど自分の目指すのはそれではなくて、たくさんの食材のもっともおいしい部分を少しずつ使った料理なのだと川手さんは説明する。煮詰めるのではなく、それぞれの持ち味を生かす料理。さらに、食材のもっともおいしい部分以外、ほかの料理店では破棄してしまうような部分も、きちんと生かしたい、というのが川手さんの考えだ。今日の、アンディーブと、取り除いた芯で作るアイスクリーム、という二部構成がまさにその思想そのものである。

  • 「川手さんのように何かひとつのものを極める人は輝いている。例え、100のうち90つらいことがあっても10やりがいを得られたらまた次に進める活力になるのではないでしょうか」と角田さん。「その10のために僕は料理を作り続けています」と川手シェフ。料理と小説、類は違えど、同じ道をひたすら歩み続ける職人同士。ふたりは近し感性を持つのかもしれない。
  • 「僕の料理は、お客様をハラハラさせてしまう(笑)。料理を見て“何これ!?”っていう驚く姿を見るのも密かな楽しみです」と川手シェフ。そんな想定外の味を求める「フロリレージュ」のファンは世界中に多く、ゆえに「たまに手堅い料理を出すと、ものたりない!もっとチャレンジして!とおっしゃる方もいます(笑)」。

店名の、フロリレージュの意味を尋ねると、「詩歌集」だという。ひとつの本に綴じられたうつくしい詩の数々。食材を作る人たち、扱う人たち、料理人、このお店にかかわる人々、支えてくれる人々、それらすべてが集まって完成するものという意味合いでつけた店名なのだという。

それを聞いて思った。川手さんの世界では、食材、酒類、飲料、食器や家具や調度品、照明や花瓶の花、そして人、それらは隔たりなく等しく存在していて、すべての持ち味を最大限に生かすことを川手さんは目指しているのに違いない。店内に一歩足を踏み入れたとき、舞台みたいだと思ったけれど、ここでのランチタイムなりディナータイムなりはたしかに一日かぎりの舞台なのかもしれない。セットとキャストと音楽、何が登場するのかと、わくわくと席に着く私やあなたも含めて、フロリレージュの幸福な一ページとなる。