meets TAITTINGER

Sazenka × Mitsuyo Kakuta

Vol.1 春とシャンパーニュ。

[NEW PAIRING OF CHAMPAGNE・茶禅華/東京都港区]

ずっと前、わが家に友人たちを呼んでシャンパーニュ会をしたことがある。乾杯から最後の一杯までシャンパーニュを飲み続ける、というのが趣旨の集まり。難しかったのが料理だ。シャンパーニュに合う料理が何か、みんなわからなかったので、マリアージュなどと考えずに、ともかく持ち寄ったものをシャンパーニュを飲みながら食べた。シャンパーニュには何が合うのか、未だにわからない。

中国料理と、中国茶・お酒をペアリングして提供している『茶禅華』で、シャンパーニュ・メゾン「テタンジェ」に合う一品を作っていただくことになり、いったいどんな料理が登場するだろう?と思いながら、住宅街の一角にあるお店に向かう。

蛤とふきのとうの春巻だという。春巻がシャンパーニュに合うか否か考えたこともないが、それ以上に、蛤とふきのとうを春巻の具にしようと思いついたこともない。

厨房に入れてもらって、春巻作りを見せてもらう。自家製の薄い皮の中央に、こまかく叩いて半ばペースト状にした蛤を置き、その両端に、ふきのとうのあんを置く。シェフの川田智也さんはまず下部分の皮を折り、左右両方を折り、くるりと巻く。もう一度巻くときに、本体と皮のあいだに少し空間を作ると、食感がさっくりするという。かんたんそうに言うけれど、実際やるとなると手の掛かる作業だ。一本の春巻をたっぷりの油に入れる。茶色ではなく、黄金色が理想的な春巻の色だと言われて、いつも自分の揚げる茶色い物体をつい思い浮かべてしまう。そうか、黄金色……。油から引き上げられた春巻きは、たしかに、うつくしい黄金色だ。

  • 調理場にもお邪魔させていただいた角田さん。川田シェフから、皮面の特徴を丁寧に教わる。
  • 巻き方にも一工夫。最後の一巻きにふわっと隙間を設けることが、噛んだ瞬間のパリッとした食感を生む。
  • 「温度は130℃。3分くらいゆっくり揚げ、テタンジェと同じゴールドに皮の色が変化したら頃合い」と川田シェフ。
  • 春巻きは、中央から左右にかけて味が変化するように具材を詰める。その変化は、「テタンジェ」の一口目、二口目、三口目の味わいの変化とパラレルワールドを生む。
  • 「色だけではなく、味も呼応しあって変化していく」と角田さん。食べる度、蛤の味わいからふきのとうのほろ苦さも訪れ、「海の光景が野原に変わっていく」と言葉を続ける。

淡いゴールドの「テタンジェ」と、黄金色の春巻がテーブルに並ぶと、その色味が呼応しあうかのようだ。半分にカットされた春巻を口に含むと、さっくりした皮のなかから蛤のうまみがあふれ、潮の香りが広がって、目の前に海が広がっていくようだ。シャンパーニュを飲む。うまみと香り、ふくよかさが、まろやかに、さらに大きく広がっていく。

薄い皮の歯応えも気持ちいい。あの隙間が本当に活きている!この軽やかさも「テタンジェ」に合う。蛤を咀嚼していると、奥から生姜の味と香りがピリッと効いて、味を引き締める……。

春巻の端っこを口に入れると、今度はふきのとうの香りとほろ苦さがひろがって、さっきの海の光景が野原に変わっていく。すごい。半分にカットされた春巻に、春の海と野、両方がある。「テタンジェ」を飲むと、ふきのとうのほろ苦さのせいか、辛口のシャンパーニュの上品な甘さが引き立つ。色だけでなく、味も呼応しあって変化していく。

  • ハマグリは90度くらいに優しく蒸し、3ミリ角に。しんじょうじゆばで柔らかく合わせ、お出汁で仕上げ。ふきのとうは細かく刻み、餡と絡め、それらをオブラードで包み、春巻の皮で巻く。
  • 一口、二口と春巻の味わいをじっくり確認しながら、「テタンジェ」も口に含んではペアリングを体感していた角田さん。
  • テタンジェ」の中でも、しっかりしたコクとリッチな味わいは、「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」ならでは。
  • テタンジェを最初に口に含んだ時は清らか。そこから徐々に膨らみが出てくる。その味の重層についていけるように料理も考案しました」と川田シェフ。
  • 「皮との香ばしさ、蛤のミネラル感、そしてふきのとうのほろ苦さ。春巻の味の変化がシャンパーニュの味わいの変化と見事に合わさり、食べることによってテタンジェの広がりも感じます」と角田さん。

川田さんは、「テタンジェ」の味を「繊細で力強い」と言う。それはまさに川田さんが料理で目指していることだ。川田さんがいつも心に置いている「淡」――薄い、はかないという意味だけではなく、さんずいに炎という文字があらわすとおり、清らかさと力強さの同居――を、「テタンジェ」にも感じたとのこと。だから中国料理とシャンパーニュの可能性について考えるきっかけになった、と川田さんは話す。

料理と飲みもののマリアージュとは、ただ「合う」ことだと私は思っていた。川田さんによれば、マリアージュとは融合ではなくて、調和、とのこと。混ざり合うのではなく、バランスをとること。なるほど、私には難問すぎる。かつてのホームパーティで私が答えを見つけられなかったのも当然だ。

  • 川田シェフは、料理だけではなく、中国の文化や伝統、歴史にも造詣が深い。メモを取り出し、熟語などを例に、その哲学を語る。
  • 川田シェフの言葉に聞き入る角田さんは、常にノートとペンを手に持ち、大切なことを書き留める。良く見ると、歴史感、自然の産物、シルクロード……。気になる言葉が並ぶ。
  • 「“テタンジェ”を漢字で表すならば“淡”」と川田シェフは話す。さんずいに炎の文字通り、清らかさと力強さが同居するシャンパーニュについて熱弁する言葉もメモ。
  • 「テタンジェ」の「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」の感想を「きめ細かい泡に繊細な味。だけど、徐々にふくよかな膨らみが出てくる」と話す川田シェフ。
  • 今回の料理、文蛤春捲の文字の隣には、真味只是淡(しんみはただこれたん)。これは『茶禅華』の哲学でもある。「濃厚な酒、脂っこいもの、辛いもの、甘いものは本当の味ではない。本物の味は淡い味の中にある」という意味(下記も参照)が含まれる。上記の太極図においても「光と陰の摂理は、生き方や料理にも似る」と川田シェフ。
  • 店内にも飾る「真味只是淡」の文字。「醸肥辛甘(じょうひしんかん)は真味(しんみ)にあらず 真味はただこれ淡(たん)なり 神奇卓異(しんきたくい)は至人(しじん)にあらず 至人はただこれ常(じょう)なり。つまり、道を極めた人は、ごく平凡に生きているように見える人であるということであり、本物であれば過剰な演出は不要」と川田シェフ。

シャンパーニュと春を包んだ春巻。たしかに、混ざり合い同化してしまったら、たがいがたがいを変化させることはない。川田さんの哲学に深く納得しつつ、でも、食べて飲む時間はただひたすらにおもしろかった。味の変化がこんなにたのしい食事って、はじめて体験したかもしれない。

  • 新体験だった「食べるシャンパン。」を堪能した角田さん。最後は「今度は、フルコースでゆっくりペアリングをいただきたいです」と川田シェフに話す。