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注目トレンド更新日:2019年10月24日

ケレン味が増す、大衆酒場の定番料理

いわゆる“大衆酒場”のリバイバルで盛り上がり続けている居酒屋業界。しかし現代の大衆酒場は、“サラリーマンの憩いの場”というかつてのそれが持ち合わせていたイメージから脱却し、若い世代や女性客をも吸収する懐の広い店に進化している。大衆酒場の最たる魅力は、リーズナブルな価格や、肩肘張らない空間・サービスにあるが、そうした業態の根っこはキープしたまま、空間演出やメニュー設計で現代的なアプローチを施しているのが繁盛店の共通点だ。とりわけ目につくのが、刺身、煮込み、ポテトサラダ、ちくわ天やハムカツなどの揚げものといった、大衆酒場のド定番といえるメニューの個性化。今回はそうしたメニューにフォーカスし、大衆酒場の進化のほどを探っていこう。

酒場の定番を差別化アイテムに

大衆食堂スタンド そのだ

 17坪のフロアにコの字型カウンター30席を配し、ターゲットである20代~40代の客層が大衆酒場らしい賑わいを創出している「大衆食堂スタンド そのだ」(大阪・谷町六丁目)。2016年5月にオープンした同店は、人通りの少ない商店街の外れに立地するが、11時~23時の通し営業で、客単価2200円、月商900万円を売り上げる人気店に成長している。約70品(150~1000円)をそろえるフードの中には、バルメニューやエスニック料理のエッセンスを取り入れたり、盛付けでインパクトを出すなどの手法で、大衆酒場の定番メニューを現代的にリモデルしているものも多い。アンチョビと煮卵を添えたポテトサラダ、ポテトサラダを詰めて揚げたちくわ天、ツーオーダーでスジ煮込みと豆腐を合わせてドカ盛りで提供する肉豆腐、豆腐によだれ鶏をのせてパクチーを山盛りにした冷奴などがその一例だ。串焼きも、クミンなどのスパイスに漬け込んだラム肉を焼いた「ラムの串焼き」を置くなどして個性をアピールしている。また、鮮魚料理はいっさい置いていないのも特徴。これによってオペレーションの負荷を下げて属人性を配し、食材のロス削減にもつなげている。

大阪府大阪市中央区谷町6-3-7
●なし
営業時間/11時~23時 無休
店舗規模/17坪30席

つまみ的な一品料理に加え、「中華そば」や「ステーキ定食」といった食事メニューも用意し、さまざまな利用動機に対応。一方、アルコールは「酒場の飲酒ニーズにおいてバリエーションは不要」との考えから、生ビールやハイボールなどスタンダードなアイテム計10種類弱に絞り込みつつ、アルコール売上げ比率30%を確保している。

立呑み コマル③

 「立呑み コマル③」(東京・三軒茶屋)は、2018年11月にオープンしたスタンド酒場の新顔だ。円形のカウンターを配した10坪の空間は、スタンディングで最大20人を収容。連日満席の繁盛ぶりで、客単価2800円で月商480万円を売り上げている。「外食感度が高い30代~40代の男女が日常使いできる店」をイメージして開発したという同店は、食材の組合せや調理法の工夫に知恵を絞り、また仕込みも手間暇をかけたフードメニューが集客のフックだ。たとえば、ポテトサラダはコンビーフを練り込んで、仕上げにお客の目の前でホースラディッシュをすりおろす。鶏レバーの串焼きは、ニラの醤油漬けをトッピングして中華のエッセンスも感じさせるユニークな仕立てにし、ちくわの磯部揚げはちくわの中にゴルゴンゾーラチーズを詰めて調理する、といった具合。2019年4月に「新名物」として導入したシュウマイも、黒豚を使って店で仕込む本格派だ。また、刺身には長崎産の本マグロを使うなど、素材の品質で勝負する一品も用意。フードメニューは約40品を用意するが、原価率に45%を投じ、メニューの8割を300~600円のお値打ち価格で提供している。

東京都世田谷区太子堂5-15-12
●03-6804-0503
営業時間/18時~翌2時(日・祝は17時~23時) 無休
店舗規模/10坪(スタンディング20人)

フードは基本的に日替わりで提供。アルコールは100品超と種類豊富な品ぞろえだ。フードはメモ用紙に名前と注文内容を書いてスタッフに渡し、クラフトビール、ワイン、日本酒などのボトル販売のアルコールはお客が冷蔵庫からセルフで選ぶスタイル。支払いもキャッシュオンとするなど、ホールスタッフなしの運営を実現するための“仕組み”も秀逸だ。

酒場 角のうぐいす

 大衆酒場の定番である煮込みを、訴求力の高い看板メニューに仕立てて人気を呼んでいるのが、2017年8月にオープンした「酒場 角のうぐいす」(福岡・春吉)だ。同店の煮込みは具材を串打ちして大鍋で煮る「串煮込み」のスタイルで、牛すじ煮込みと豚の角煮をアレンジした「牛すじどろ炊き」と「角の豚串」の2種類を用意。とりわけ角の豚串は、豚の角煮、長ネギ、コンニャク、ウズラの卵が1串で楽しめるユニークなメニューだが、そうした個性的な商品設計に加え、入口正面のカウンターに造りつけた2つの大鍋で煮込む演出や、1本単位で気軽に注文できるといった点も、串煮込みの訴求力アップにひと役買っている。実際、この2品だけで売上げ構成比の23.6%を占めるというから驚きだ。また、そのほかの酒場の定番メニューも、刺身は福岡の長浜鮮魚市場直送のネタを発泡スチロール製の箱に盛り付けたり、レバ刺しはレバーをたんぱく質が固まらないギリギリの温度で加熱して「ギリレバ」のネーミングで販売したりと創意工夫が見られる。カウンター席を中心にレイアウトした店舗は24坪50席。客単価2900円で月商800万円を売り上げている。

福岡県福岡市中央区春吉2-12-14
●092-707-3340
営業時間/17時~翌1時 無休
店舗規模/24坪50席

フードは、看板メニューの串煮込み、刺身の盛合せ「本日の色箱」、調理法にこだわったレバ刺し「ギリレバ」など工夫を凝らした一品料理のほか、冷奴や茶豆などシンプルでクイック提供可能なメニューを合わせ、約80品(180~880円)を用意。アルコールも4種類のバリエーションを用意するレモンサワーを主力に、計約80品の豊富な品ぞろえ。

“安心感”よりも“わくわく感”で客層拡大

従来の大衆酒場における定番メニューは、「かならずある」「味の想像がつく(いつもの味)」という安心感が強みの一つだった。しかし、現代版・大衆酒場において、酒場の定番の役割は変わった。競合激化を勝ち抜くための“集客のフック”という新たな役割を担い、ケレン味たっぷりの“この店ならでは”の一品へと進化しているのだ。これまで紋切り型のメニューが多かった定番だからこそ、店の創意工夫は際立つ。お客を楽しませる、喜ばせるためのメニューの仕掛けも、大衆酒場の客層拡大につながっているのだ。

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