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注目トレンド更新日:2019年8月21日

勝ち組が示す「そば居酒屋」の真価

そば専門店よりも気軽に使えて酒もしっかり飲みたい、総合型の居酒屋よりも専門性の高いメニューを楽しみたい――その二つのニーズに応えるコンセプトが「そば居酒屋」だ。目新しくはなく、意外と競合の多いジャンルなだけに、繁盛店になるには一つ抜きん出たアイデアが求められる。しかし、それ以上に重要なのは“メニュー構成のバランス”だ。「そば専門店×居酒屋」の“いいとこどり”で間口を広げるのがこのコンセプトの狙いだが、メニュー次第では、片手落ちや中途半端な印象を与えかねず、意図したシナジーは生まれない。それは、そば居酒屋に限らず複数のコンセプト(あるいは業種業態)をフュージョンさせた店に総じていえることだろう。

そばも、そば以外も付加価値アップ

おでんと鴨蕎麦 居酒屋じんべえ 3ビル店

 2017年8月に大阪・梅田に開業した「おでんと鴨蕎麦 居酒屋じんべえ」。特筆されるのはエリアのニーズをくんだ商品設計で、「関西圏ではそば居酒屋は馴染みが薄い」「大阪人に“締めにそば”という発想はあまりない」との考えから、おでんとそばの2本柱とし、肉をたっぷりと盛った「肉肉蕎麦」のように食事性の高いそばメニューもラインアップ。フードは約80品で、肉肉蕎麦のほか、大量のもみ海苔でそばを覆い隠した「花巻蕎麦」、「具だくさんがんも」をはじめとする自家製おでんダネなどを、類似コンセプトとの差別化を図る“勝負メニュー”と位置づける。一方で、「蕎麦屋の板わさ」「海老天蕎麦」、おでんの大根や玉子などオーソドックスな定番メニューも充実。定番メニューの存在が、「そばを置いている創作居酒屋」ではなく「そば・おでん居酒屋」であるというの印象づけにひと役買っている。また、クリームコロッケやタンシチューなどの洋食アイテムもそろえ、和食主体のメニューに変化をつけているのもユニークだ。客単価3000円、30坪60席の規模で月商1000万円を売り上げている。

大阪府大阪市北区梅田1-1-3
●06-6147-7330
営業時間/15時~23時(L.O.22時30分)、日曜・祝日は13時~22時(L.O.21時30分) 無休
店舗規模/30坪60席

「おでんと鴨蕎麦 居酒屋じんべえ」は、イタリアン業態「アレグロ」と居酒屋業態「じんべえ」を主力に兵庫県と大阪府で直営展開を進める(有)レストランバンクが手がけるそば居酒屋。ドリンクも390円の均一価格で提供するなどアイデア満載のメニュー設計で、そうした施策も奏功してアルコール売上げ比率39.4%を確保している。

酒場 たかや

 「汁なし坦々」や「ベジポタ」など独自性の高いそばを締めのメニューに投入し、そば居酒屋の新たなスタイルを提案しているのが、2018年4月に東京・水道橋に開業した「酒場 たかや」だ。フードは約40品をラインアップ。ユニークなのは「お通し」600円で、イカやカキなどの魚介、キノコを卓上の七輪でお客自ら調理するスタイルを採用。追加オーダーを促すのが七輪を使う「旨肴七輪炙」のカテゴリで、「黒豚舌パストラミ」などを用意。一方、「豆あて」のカテゴリでは「パクチーのおひたし」や「めかじきの燻製生ハム」といった創作つまみを300円の均一価格で提供する。主力のそばは、店内で手打ち。シンプルな荒挽きの「ざる」と変わりそば4品を用意し、組客当たりのそばの注文率は70%にのぼる。そばと並ぶ名物メニューとして導入しているのが「あて巻」のカテゴリ。あて巻は、燻製サーモンや煮穴子、クリームチーズなど具だくさんの創作巻きずしで、「炙り和牛雲丹」は新規客のほとんどが注文する人気メニューだ。客単価は昼950円、夜5000円、12坪26席で最高月商320万円を計上している。

東京都千代田区神田三崎町2-2-13 八千代ビル1F
●03-5212-5339
営業時間/11時30分~15時(L.O.14時)、17時~翌0時(L.O.23時) 日曜定休
店舗規模/12坪26席

アルコールのメインは日本酒。20銘柄を半合500円の均一価格で提供しており、ドリンクの売上げの7割を日本酒が占める。また、「たかやのサワー」4品各500円はグラス代わりに竹筒を使い、お茶割りはだったん蕎麦茶×はちみつ×バーボンなど独自配合のドリンク9品各500円を用意。アルコール売上げ比率は50%を確保する。

二〇加屋長介 薬院本店

 うどん文化が根強い九州・博多では「そば居酒屋」ならぬ「うどん居酒屋」が確固たる地位を築いている。その代表的な1店が「二〇加屋長介(にわかやちょうすけ)」で、福岡と東京でグループ4店を展開し、坪月商30万円以上を計上する人気ぶりだ。薬院本店は、福岡市の高級居酒屋「田中田」で料理修業に励んだ代表の玉置康雄氏が、「舌が肥えたお客さまが普段使いにふらりと立ち寄れるような大衆酒場」として2010年9月に開業。それゆえ約80品を置く一品料理は、和食をベースにしたシンプルな仕立てでありながら、玄界灘の魚介類など食材の品質の高さや、ていねいな仕事がうかがえるものばかり。一方、うどんも品質を徹底追求。麺は福岡県糸島産の粉を使って自家製し、その麺を確かな調理技術と独創的な仕立てで16品のメニューに展開。博多らしい「ゴボ天」もあれば、さぬきうどんで馴染みのある「ぶっかけ」もあり、また水炊きをヒントにした「鶏スープあつかけうどん」や牛モツ入りの醤油ベースのつゆで食す「もつしょうゆつけうどん」など個性的なメニューもそろう。客単価は3000円。

福岡県福岡市中央区薬院3-7-1
●092-526-6500
営業時間/16時~翌1時(L.O.翌0時)、日・月曜は16時~翌3時(L.O.翌2時)
店舗規模/13坪18席

一品料理はあえて価格を表示せず、鍋以外は全品1人前1000円以下として人数や要望に合わせて量と価格を調整する。アルコールは、店内のセラーにストックする自然派中心のワイン80銘柄から、おもに福岡県産の日本酒、焼酎、クラフトビールまで全方位的にラインアップしており、売上げ比率35%を占める。薬院本店の店舗規模は13坪18席。

コンセプトの“真価”を理解してこその“進化”

ここで紹介した事例は、さまざまな角度からメニューの魅力アップに努めているが、注目すべきは、そば(うどん/以下同)にも一品料理にも等しく力をそそぎ、両者のパワーバランスをととのえていること。そのバランス力が、そば専門店でも居酒屋でもない、そば居酒屋というコンセプトを成立させる肝。コンセプトの“真価”を十分に理解し、そばと一品料理の商品力をともに押し上げていくことが、そば居酒屋としての“進化”の道だ。

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