繁盛店の扉 サッポロビール 飲食店サポートサイト

[an error occurred while processing this directive]

注目トレンド更新日:2019年7月24日

肉業態の本命は“肉食堂”

空前の肉ブームは、素材としての料理への汎用性の高さ、お客を楽しませる演出力とインパクト、そしてアルコールとの相性の良さなどを魅力に、いわゆる“肉バル”をはじめ、数々のディナー業態の開発へと外食業界をいざなった。そして今、肉にフォーカスした業態開発のトレンドは、昼夜問わずに利用可能な“食堂”業態にシフトしはじめている。“肉食堂”というと牛丼店を連想するかもしれないが、よりごちそう感や満足度の高いメニューを提供し、そのうえで比較的リーズナブルな価格やスピード提供など食堂らしい利便性の高い店づくりを施すのがこれからの“肉食堂”の勘どころ。肉食堂こそ肉業態の大本命と感じさせる事例を紹介しよう。

スピード提供可能な商品設計

焼肉ライク 新橋店

 東京・新橋の「焼肉ライク」は“焼肉店のファストフード化”にチャレンジした注目店で、2018年8月にオープンした。16坪のフロアに配した21席の客席が1日19回転し、1日平均客数400人という図抜けた集客力を発揮している。客席には1人1台の無煙ロースターを設置し、お客自身が肉を焼くスタイルを採用。フードの主力は売上げの9割を占めるセットメニューで、売れ筋1位の「カルビ&ハラミ(サガリ)セット」200g1200円、牛丼チェーンの焼肉定食と価格水準を揃えた「うす切りカルビセット」100g530円など、2~3のサイズ別に6種類の定食をラインアップしている。牛肉は主に米国産のチルドを使用して品質を追求する一方、店舗にカット済み牛肉を入れて厨房作業を軽減。焼肉に使う部位はホルモンを含めて7種類に絞り込み、食材回転率と盛り付けのスピードアップにつなげている。これにより、提供時間はピーク時でも3分以内をキープ。客席パターンも検証を重ねて最適解を導き出し、滞席時間は目標とする22分以内を実現している。客単価は昼1290円、夜1560円で、月商1800万円台をたたき出している。

東京都港区新橋2-15-8 新橋W・Bビル1F
●03-3519-8929
営業時間/11時~23時(L.O.22時45分) 無休
店舗規模/16坪21席

業界きってのスター経営者である西山知義会長率いる㈱ダイニングイノベーションが経営。客席パターンの工夫も相まって、来店客の平均組客数は1.1人と「ひとり焼肉」のニーズをがっちりと吸収。焼肉ライクは2019年6月時点で都内を中心に8店舗を布陣しており、多店化が堅調に進んでいる。

Beef Bank 川崎

 神奈川・川崎の「Beef Bank」の名物は、牛の塊肉を手切りし、ごはんを覆い隠すように盛り付けた「低温調理 ビーフバンク丼」。ビジュアルのインパクトとボリュームを武器に、4.5坪6席で1日平均客数100人という驚異の集客力を見せている。フードは、低温調理 ビーフバンク丼(6サイズ・肉100g649円~)と、低温調理の牛肉とカレーを相盛りにした「牛カレー&ビーフバンク丼」(4サイズ・肉100g880円~)が主力。低温調理 ビーフバンク丼のカテゴリ原価率は50%だが、それゆえに客席回転率を高めて収益を安定させる必要がある。そこで肝になるのが調理オペレーションだ。牛肉は塊のまま真空状態で低温調理し、その後に表面を炙って保管。注文後はヒーター付きのケースに並べた塊肉を手切りし、ごはんに盛って自家製だれとコショウをかけるだけのシンプルなかたちに落とし込んだ。結果、ピークタイムでも3分以内の提供が可能になり、平均滞席時間を20分に縮めて客席回転率を高めている。客単価は昼1100円、夜1300円で、月商350万円と売上げも上々。2018年7月に開業した渋谷店も好調だ。

神奈川県川崎市川崎区駅前本町14-1 DKビル1F
●044-589-8935
営業時間/11時~14時、17時~22時30分(土曜17時~22時30分、日曜15時~21時) 無休
店舗規模/4.5坪6席

経営母体は、ステーキ店などの肉業態を神奈川県と東京都で3業態7店舗を展開する㈱アイランズ。「Beef Bank」は、駅前繁華街の路面で5坪以下という物件条件を考慮して開発された。厨房の加熱調理器は牛肉を調理する低温調理器とカレーを煮込むIHレンジのみ。常時2人の人員体制で営業。

小炭火丼専門店 どんぴしゃり

 名物の「炭焼豚丼」でヒットを飛ばしている東京・高田馬場の丼専門店「炭火丼専門店 どんぴしゃり」。11坪18席の小体な店でありながら、客単価880円で月商540万円を売り上げる人気ぶりだ。炭焼豚丼は、厚さ8mmに切り分けた豚バラ肉を低温調理しておき、仕上げに炙ってごはんにたっぷりと盛り付けたメニュー。普通サイズでごはん300g+豚肉250gのボリュームで、価格は780円の設定だ。これに加えて、小350g、大700g、特850gの計4サイズ(730円~1150円)をラインアップしている。商品価格は周辺の相場よりも200円ほど上まわるが、それはしっかりとした商品力を備えたメニューで勝負するため。『学生街だから』という固定観念をあえて捨て、価値と価格の適正化を図ったこの施策が、お客の支持につながっている。その考え方は、フードのもう一つの柱である「炭焼鶏タル丼」(3サイズ・730円~850円)にも反映されており、普通サイズ780円で鶏モモ肉250gを使用。メニューのオリジナリティと肉を食べたという満足感はこちらも大きい。なお、売上げ比率では炭焼豚丼が4サイズ合計で7割に達する。

東京都新宿区戸塚町1-101-1 アルファ早稲田ビル1F
●03-6228-0296
営業時間/11時~15時(L.O.)、17時~23時(L.O.) 日曜定休
店舗規模/11坪18席

主客層は学生だが、近隣に住むビジネスパーソンの食事ニーズも吸収している。来店客の男女比は5対5。営業時のシンプルな調理オペレーションがスピード提供につながっているのは言わずもがな。原価率30%、人件費率25%で、営業利益30%を確保しており、収益性も良好だ。経営母体はエスキューブジャパン㈱。

食堂業態に生かされる肉のポテンシャル

 今回紹介した事例は、“ごちそう”の代表格である焼肉や、低温調理を施した“外食ならでは”の肉料理など、明確な売り物を有しているのが最大の強み。だからこそメニューの絞り込みや、仕込みに重点を置いた商品設計が可能になる。その施策は店としての便利さの向上につながるもの。メニューが選びやすく、提供スピードも速い(客席回転率が高い)からこそ、時間に制約のある人々のお眼鏡にかなった店になる。料理に、店づくりに、肉のポテンシャルをいかんなく発揮した業態開発といえよう。

過去の記事はこちら