「ホルモンブーム」が去って久しいが、食材としての注目度はますます高まっていると言えるだろう。かつてのブームではホルモンを主食材としたさまざまな業態が登場し、女性客など従来は縁遠かった客層がホルモンを気軽に楽しむようになった。そうしてホルモンが外食市場に浸透したいま、この食材の注目ポイントは原価の低さだ。人件費をはじめさまざまなコストが上昇する中にあって、高粗利を確保できるメリットを生かさない手はない。事実、その点に着目した新しい業態や提供スタイルが次々に登場している。
売り方次第でホルモンのポテンシャルは大爆発することを実感させてくれるのが、福岡・博多の「鉄板焼き天神ホルモン 博多駅店」である。同店の特徴は、カウンターに立つ職人がお客の目の前でホルモンを焼いてカットし、ご飯と味噌汁をセットにした定食として提供すること。このスタイルが大当たりし、16坪24席の規模で1日約450人を集客、月商じつに2000万円を売り上げている。定食は1280~1880円で10品あり、客単価は1日トータルで1550円。看板商品の「元祖 ホルモン定食」1280円は、シマチョウ、アカセン、牛スジ、豚ホルモン各50gに、付合せのモヤシ炒め150gというのが定番だが、ホルモンの部位は固定しない。
内臓肉は季節によって価格が変動するため、ホルモン4種をミックスして仕入れ値を調整しているのだ。これによって元祖ホルモン定食の単品原価率を28%に抑えている。一方で焼き台を担当するスタッフは社員に固定し、鉄板調理のパフォーマンスを訴求。付加価値を高める戦略を徹底したことが大ヒットにつながった。
福岡県福岡市博多区博多駅中央街1-1 JR博多シティB1 ℡092-413-5129
営業時間/10時~23時(L.O.22時) 無休
店舗規模/16坪24席
経営母体は㈱56フーズ・コーポレーションで、2010年に他社から天神ホルモン事業の譲渡を受け業態のテコ入れを図った。その結果、コの字型の鉄板焼きカウンター内で職人が調理するシズル感抜群のスタイルに。来店客の7割を訪日韓国人客が占め、そのうち女性客の比率は8割に達している。
東京・下北沢の「大衆ホルモン 肉力屋」は、焼とんと焼肉の融合という営業スタイルを打ち出したヒットコンセプトだ。2016年8月のオープン以来、16坪42席の規模で月商560万円を売り上げる好調ぶり。経営母体の㈱ディーアールは肉を主力にした多彩な業態を展開しているが、ここでは「客単価3000円で、月3回通ってもらえることをめざした」と谷脇宗社長は語る。メニューは焼肉とホルモンで計26品を揃え、プライスポイントを390円に設定。そのうち16品を原価の低い内臓肉で構成し、トータルの原価率を32%に着地させている。看板商品の「名物肉盛り」990円は、東京・芝浦の食肉市場から仕入れる豚の内臓肉を4種盛り合わせたもの。
また真空低温調理したハツ、タン、カシラの3品を盛り合わせた「新鮮内臓盛り」590円は、加熱済みでありながら刺身のような食感と味を併せ持つユニークな商品で、テーブル注文率が60%におよぶ人気メニューとなっている。腸の周りにある脂の塊「花腸」290円など、仕入れ力を生かしためずらしいメニューも揃え、熱心な固定ファンを摑んでいる。
東京都世田谷区北沢2-12-3 石川ビル1F ℡03-6805-2958
営業時間/17 時~翌1時(金曜~翌2時、土曜15時~翌2時、日曜15時~翌0時) 無休
平日の客層はビジネスパーソンが中心だが、休日はファミリー客も集客。お客の年齢層も20代~50代と幅広い。テーブルに七輪を置き、上部に排気ダクトを配置したオーソドックスな焼肉店のスタイルだが、これまでにないカジュアルな利用動機を摑むことに成功した。アルコール売上げ比率は35%。
フードメニュー65品のうちホルモンと肉料理が38品を占め、さらにその6割強の価格を350円以下に集約。この価格訴求力を武器に、わずか7.5坪の規模で月商260万円を売り上げる立ち飲み店が2016年6月にオープンした神奈川・横浜の「大和町もつ肉店」である。フードメニューの柱は140~690円のプライスレンジで提供する肉料理28品。価格は抑えながら、焼き物は炭火で焼きあげるなどクオリティの高さを打ち出した。売れ筋は「本日の串焼き盛り合わせ」690円や「ラムチョップ」390円、「ハラミステーキ」690円など。"名物カテゴリー"では定番の「もつ煮込み」350円の他、「炙りレバー」「炙りユッケ」(各500円)が人気だ。
さらに魚介の炉端焼きやレバーパテといったバルメニューも揃えることで業態の間口を広げている。アルコールの売れ筋は焼酎の濃度を4段階に調整できるホッピー390円。客単価は1700円と、気軽な居酒屋ニーズの吸収に成功しており、アルコールの売上げ比率は50%を確保している。
神奈川県横浜市中区大和町1-2-5 ℡045-623-2939
営業時間/15 時~22時(金曜~22時30分) 日曜定休
店舗規模/7.5坪20人収容
7.5坪の小体な店ながら、調理の活気がダイレクトに伝わるオープンキッチンを採用。来店客の男女比率は7対3となっている。看板メニューである肉の炭火焼きは中心価格帯を140~180円として、カジュアルな利用動機を喚起する。経営母体は神奈川県下で外食5店を展開している㈱Def eat。
コンビニエンスストアをはじめとする小売業が食部門の比重を高める中で、外食業がそれらと差別化するうえでの武器が「店舗調理」である。店舗調理によって何が実現できるかといえば、それは「高付加価値化」だ。原価の低い食材を活用しつつ、現場の調理技術によって高い売価をいただける商品に仕立てていくことであり、それが外食ならではの価値を生み出す。また、高付加価値化の手段を広く店段階での作業と捉えれば、独自のルート開発といった仕入れ努力もその中に含まれる。今回紹介した事例は、ホルモンという食材を活用した高付加価値化の好例と言えるだろう。