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SORACHI’S TALK... #02 IN PROGRESS ブランドの現在とこれから。

“SORACHI1984”のブリューイングデザイナー、新井健司がゲストを迎え“世界に通用するクリエイティブ”を探求するスペシャルコンテンツ「SORACHI’S TALK」。第二回は、前回に引き続き、ファッションブランドTAAKK(ターク)のデザイナー、森川拓野を迎えてのトークセッション。TAAKKのブランド初となる、パリコレクションのリアルランウェイショー開催を間近に控えた某日、目黒区にある森川のアトリエでの対話は、海外についての話題からスタートした。
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閑静な住宅街にある一軒家がTAAKKのアトリエ。間近に控えた2023春夏コレクションのムードボードやデザイン画、生地見本で溢れていた。
TAAKKとSORACHI1984、
2つのブランドの現在地点。
ーーTAAKKは、海外のPRエージェンシーと契約しているそうですね。
森川:ブランドが今後どうありたいかということを考えたとき、「もっと世界でやりたい」って思ったんです。以前は国内のアタッシュドプレスと契約していました。そのときはマンスリーレポートも送られてくるし、自分たちが知っている著名人やタレントさんが着てくれたり、助かることは多かったんですけど、もっと自分たちがワクワクするような状況を作りたいなとも思っていました。そんなタイミングで、たまたまロサンゼルスのPRエージェンシーとつながって、じゃあ、そこでやってみようかと。決して、国内はダメで、海外はいいねとか、そういうことではないんです。
ーー日本と海外でTAAKKに対する反応の違いは感じますか?
森川:着てくれた人がぜんぜん知らないラッパーだったから、調べてみたらSNSのフォロワーが数100万人いたとか(笑)。規模や文化の違いに「へぇ」と唸ったり驚いたりすることは多いですね。それと、やっぱり、今は国内消費だけに頼る時代じゃないんだなぁと、いよいよ証明されてきてるような感じがします。国内とか海外とか関係なくフラットな世の中になる気がするから、そこに対して僕らはもっと何かやっていないと。
ーービールは輸出されている商品もあるんでしょうか。
新井:している銘柄もあります。サッポロビールでいえば、ヱビスビールは輸出されています。SORACHI 1984は国内のみの流通ですね。
ーーTAAKKのパリコレクション発表の会場でゲストにサンプリングするという計画もあるそうですが、SORACHI 1984という銘柄でも海外を意識されているんでしょうか。
新井:SORACHI 1984に使われているソラチエースというホップが、日本国内に先んじて海外で認められたという経緯があります。なので、SORACHI 1984も同じような道をたどらせたいなという思いはあります。
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ーーソラチエースは日本で生まれながら、なぜ海外で先に見出されたんでしょうか?
新井:ソラチエースが生まれたのが1984年です。日本は80年後半からバブルに入ったんですが、その頃、世の中がビールに求めていたのは味わいではなく、喉越しだったんです。その流れにのって、適度な苦味と爽やかな飲み口の辛口ビールが爆発的にヒットしました。ソラチエースは、香りが強すぎて受け入れられなそうだし、黒ラベルにも合わなそうだしということで、結局世の中に出ていないんです。そうなると永遠にお蔵入りなんていうこともありそうですが、ソラチエースは、いろいろな人の手を伝ってアメリカに渡ったんです。ポテンシャルを感じていた人が多かったんだと思います。
ーービールの世界では、海外と日本で感覚に違いを感じることはありますか?
新井:ありますね。わかりやすいのがクラフトビール。アメリカではもう、10%を超えるシェアを取っているんです。一方、日本はまだ1%いっているかどうかというところ。アメリカは多民族国家ということも関係しているかもしれませんが、新しいものに寛容で、さらに、それを次のステージに押し上げてくれるイノベーターがいるように思います。それが、広まって世の中ごと化していくんですけど、日本人はなかなか新しい物に手を出さない。地ビールブームが起きて、いまはクラフトビールブームと言われているんですが、それでもシェアは1%なんです。新しいものに対する寛容度というか、手を伸ばす人のボリュームが全然違うという感じがします。とにかく時間がかかるんです。
森川:東京にいると、ビールの多様化は昔よりも進んでいるように感じますけど、それでも1%ということは、地方ではまったく変わっていないってことですか?
新井:そうですね。あと、種類はたくさん増えているんですが、結局、それを買う人が増えていないんです。いろいろと試す人はいるけど、その人が順番にいろいろ試しているだけで、100人中1人だけといった感じなんですよ。
森川:僕の周りは10%を超えてると思うんですけどね。
新井:森川さんの周りはそうだと思います。クリエイターさんには、そういう方が多いですね。クラフトビールだったり、ちょっと個性のあるものに手を伸ばして楽しまれている印象です。ただ、なかなかそういう人ばかりではなくって。
森川:うーん、難しいんですね。
新井:2015年くらいから大手もクラフトビールに参入しているんです。かれこれ7年。もっとシェアを伸ばしていてもおかしくないはずなんですよね。
森川:それこそPR戦略とかはどうなっているんですかね。
新井:おととしくらいかな、ドラマでもクラフトビールが取り上げられたり、先日は、『サザエさん』でも取り上げられていたんですよ。あの三河屋さんがクラフトビールを持ってきたんです(笑)。驚きました。
森川:時代ですねぇ(笑)。
新井:もしかしたらタイアップかもしれませんが「あぁ、そうか、ここまでは来たか」と思いました(笑)。こうして日常的に取り上げられることが増えるともう少し身近な存在になっていくかもしれません。
森川:次は『ドラえもん』に期待したいですね(笑)。
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海外を意識することで、
ブランドは強度を高めていく。
ーー海外の顧客にクリエーションを届けるとき、意識することはありますか?
森川:僕がいつも思うのは、まず、サイズ感の問題がひとつ。あとは輸出関税と送料と。日本国内での販売価格と比べて、1.5倍くらい高価になってしまうんです。TAAKKの場合は、もともと日本の市場も決して大きな市場じゃなくて、とてもニッチなところで戦っているから、それを海外に移したからといって、ブランドを評価してくれる感覚はそれほど変わらないと感じています。もちろん、日本ではシンプルでシックなものが選ばれて、海外だと、もう少しわかりやすいもの、強いものが受け入れられるといった違いは多少ありますね。やっぱり問題は価格で、シャツが6〜7万円になってしまうし、日本で12万円くらいのコートは20万円に近い金額になってしまう。そうすると、名だたるメゾンのコレクションと近い価格になっちゃうんです。早く輸出の壁が取り除かれたらいいのになと思っています。
新井:TAAKKの洋服を買う人は、あんまり金額は気にしない人が多いのかなという感覚を持っていました。
森川:もちろん、そういうお店や顧客に支えられているんですが、ただ、そういうお店が世の中にどれだけあるかというと、それほど多くはないので。
新井:お客さまに届く前にそもそもお店に並ぶことが難しいということもあるんですね。
森川:さらに、そういうお店に並ぶときは横並びのブランドが、誰もが知るようなグランメゾンになってしまったり。安いから買おうという感覚では選ばれないので、ものとしての良さ、強さを持たないといけないんです。国内であれば、もっとシンプルにとか、コストメリットをどうやって出すかという話になったりもするんですが、海外で戦うならもっと自分ともクリエイティブにも向き合わなければと思っています。
新井:あぁ、そういうことになってくるわけですね。
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森川:ただ、それはとても気持ちはいいですよ。ブランドの知名度がなければ、商品力でしか戦えないので、よそのブランドにはない強さをどうやって出すのかを考えるのは、面白いです。買ってくれる人の趣味趣向というよりは、そういうところですかね、僕が考える、海外と国内の大きな違いは。大きな壁は感じるけど、その壁が僕をワクワクさせている気もします。
新井:その考え方、すごくいいですね!
ーー発信のベースや販売を海外にすると、作り手の意識にそうやって作用するんですね。
森川:今はパリコレでコレクションを発表していますが、その前にパリでセリングだけはやっていた時期があって。そのときからですかね、海外の壁を意識するようになったのは。今は、いい服を作って当たり前で、商品力だけでなく、コレクションの作り方、発表の仕方などまで、もっと複合的に考えています。先ほどもお話しした通り、競合は名だたるブランドがずらりという状況なので、僕たちは圧倒的な弱者です。そうなると......、すごく楽しい。
新井:そこで楽しいと言い切れるのがすごいです(笑)。
森川:負けて当然という状況なんですが、僕としては、超一流ブランドと同じレースで戦っているという認識。つまり、勝つ可能性もあるんです。同じ競技場にはいて、ただスポットが当たっていない状態。毎シーズン、いい服を作れば周りの反応が変わってスポットが当たることもあるし、セールスも伸びるし、弱者なりに戦い方はあるはずで。今はそれを楽しむようにしています。
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コロナ禍を経て、
ブランドのこれから。
ーーブランドを立ち上げてから10年たちますが、当初と現在で、心境やアウトプットで、変化したことはありますか?
森川:すべてが違いますね。ブランドを立ち上げた当時は、服を作り続けられたらいいな、というくらいにしか思えなかった。志が低いと思われるかもしれませんが、ひとりでできる限界はあるし、芽が出るかどうかもわからない、お金が持つかどうか、次のシーズンもやれるかどうか……、そこで踏ん張っていた時に見る夢と、10年生き残って語れる夢とでは、まったく違います。今、こうして話しているのって、幸せかな(笑)。
ーーブランドを立ち上げたときは、未来の目標を立てたりしたんでしょうか。
森川:それも自分が今こうなってみて思うんですけど、スタートの時、明日生きるか死ぬかという状況で、なかなか具体的に5年後を語れないですよ。今はブランドを続けていけるベースができたので、来年はこうなっていたい、それをクリアできたら、その次は海外進出が見えてきて、5年後の計画が立てられるんだと思います。
ーーSORACHI 1984は、デビューからどれくらいたちましたか?
新井:4年目ですね。
ーー思い描くストーリーの何割くらいまで到達しているんでしょうか。
新井:いやー、まだまだ全然です。
ーーゼロから開発してリリースまでたどり着いているので、ある意味では100%ともいえそうですが。
新井:そうですね、ここから先がまだまだあるので。ただ、リリースから3年間生き残ったというのは、実はすごいことなんです。2年くらい様子をみてなくなってしまう銘柄がとにかく多くて。そういう意味では、最初のフェーズとしては、うまくいっていると言っていい。最低限はできていると思っています。SORACHI 1984のようなビールは、まずは飲んでもらうことが重要なんですが、コロナ禍でプランが崩れてしまいました。だから、4年目の今年は、もう一度、改めて巻き返したいと思っています。
森川:こればっかりはねぇ。
ーーTAAKKにもコロナ禍の影響は出ましたか?
森川:僕たちは 「FASHION PRIZE OF TOKYO」という賞を受賞して、2シーズン、パリコレに挑戦できる権利をもらったんです。2020年の1月に初めてのランウェイショーを開催したのですが、その後はコロナ禍によって、現地でのリアルショーは延期になっていて、次の2023年春夏コレクション(2022年6月19日開催)がようやく2度目の開催です。賞をいただいたときは、ブランドの体力面がギリギリでしたが、2年間でいろいろな人に支えられて売り上げも伸びて、だいぶ安定感が出てきました。実際はどうかわかりませんが、コロナによる猶予が、ブランドを強くしたと、ポジティブにとらえるようにしています。
新井:森川さんは一貫してポジティブですね。
ーーコロナの状況も落ち着きつつありますが、お二人の次の展望をお聞かせください。
新井:SORACHI 1984に関しては、単純にほとんど知られていないので、いかに知ってもらうか。知られることで、販売量が伸びるという状況を作り出したいですね。3年は生き残りましたが、いまの販売ボリュームがずっと続くとなると、未来永劫ブランドが残るっていうのが難しくなるかもしれないので。残すためには売上を上げていく。そのためにいろんな人に飲んでもらって知ってもらう。それを愚直にやるという感じです。森川さんとの取り組みも、もちろんその中の1つです。TAAKKのファンにSORACHI 1984を知ってもらう、SORACHI 1984のファンにTAAKKを知ってもらうきっかけになれば。
森川:今度はぜひ、飲みながらお話ししたいですね(笑)
新井:はい、ぜひ!(笑)
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TAAKK/ ターク  デザイナー 森川拓野

TAAKK/ ターク
デザイナー 森川拓野

株式会社イッセイミヤケにて「ISSEY MIYAKE」「ISSEY MIYAKE MEN」のパリコレクションの企画デザイン担当などを経て独立。 2012年、森川デザイン事務所を設立し、自身のブランド「TAAKK(ターク)」を立ち上げる。「TOKYO FASHION AWARD 2017」に選出、パリやニューヨークでの展示会を経て、2019年には「FASHION PRIZE OF TOKYO 2020」を受賞。翌年には、ブランドとして初めてパリでランウェイショーも行い、国内、海外市場ともに成長を続けている。
サッポロビール SORACHI1984ブリューイングデザイナー 新井 健司

サッポロビール ( 株 )
SORACHI1984ブリューイングデザイナー 新井 健司

2007 年サッポロビール ( 株 ) 入社。価値創造フロンティア研究所で、発酵・酵母関連の研究を担当。 2010 年 9 月に九州日田工場製造部(現 醸造部)へ異動、ビールの仕込、発酵・貯酒、ろ過工程を担 当。2013 年 9 月からドイツへ留学し、ミュンヘン工科大学 Weihenstephan 校で醸造技術を学ぶ。 2014 年 9 月帰国後、新価値開発部などを経て、新商品開発業務に従事。「SORACHI1984」ブリュー イングデザイナーとして、マーケティングから開発までを一手に担当している。
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