「静岡麦酒」は、静岡県のみなさまと一緒に創ったビールです。

商品・技術イノベーション部 商品・技術開発センター シニアリーダー 杉田敏行

大手ビールメーカー4社の中で、静岡県に唯一ビール工場(静岡工場(焼津市))を持っているのがサッポロビールです。サッポロビールでは全国に6つのビール工場を持ち、静岡工場の生産量は年間約21万kl(350ml缶に換算して約6億本)で2番目の規模を誇ります。また、静岡工場に隣接したエリアに開発・研究部門も集結。ここから新しい価値を持った新商品が次々誕生しています。もちろん、静岡麦酒ができたのもサッポロビールの技術があったからこそ。そこで、静岡麦酒の開発秘話を、醸造技術者であり、生まれも育ちも静岡県藤枝市の杉田敏行に聞きました。

― 商品・技術開発センターの仕事は

お客様のニーズをとらえ、独自の技術を用いて新たな価値を持つ商品開発を行っています。小さなスケールの試験醸造設備を使って試行錯誤を繰り返しながら、新商品となるビールテイスト飲料の基本仕様を決定するのが私の業務です。また、研究所との連携による品質保証試験や、新商品の初期開発から工場展開までを一貫して円滑に遂行するための技術試験も行っています。
簡単に言いますと、本社でマーケティング等をもとに決まった新商品のコンセプトを、試験醸造をしながら実際の味にして、問題がなく製造できるようシミュレーションするのが私たちの仕事です。言い換えると『コトバをカタチにする』ということだと考えています。つねに開発の中心にいて、工場での醸造にも関わっています。

― 静岡麦酒を開発するきっかけ

「静岡県を一番愛するビール会社になろう!静岡県のみなさまに愛されるビール会社を目指そう!」という思いから、県内で活動する支社、工場、商品開発のメンバーが集まり、静岡プロジェクトがスタート。「静岡が好きだから宣言」の集大成に、具現化に向けた活動を開始しました。その取り組みのひとつとして「静岡県限定のビール」が発案され、2012年7月頃に開発が決定。コンセプト策定から企画、開発、製造、販売まで一貫して静岡県にこだわろうと、静岡県生まれ、静岡県育ちの社員を中心にした10数名を集め、「チーム静岡っ子」を結成しました。
発売日は2013年の2月23日(富士山の日)と決まっており、開発期間が通常1~2年のところ、わずか半年という異例の事態でした。短期間にもかかわらず、みんなで熱い討論を重ね、時間を忘れて打ち込みました。そこは、『温厚な静岡県人らしくない』でしょうか。

静岡にふさわしいビールに

どうすれば「静岡県にふさわしいビール」をつくれるかを熟考した結果、出た答えが「静岡県のお客様と一緒につくる」でした。静岡工場でのイベント集客時に、「チーム静岡っ子」のメンバーが新商品に関するアンケートやインタビューに立ち合い、お客様の生の声を聞き、ニーズを肌で感じたことが「静岡麦酒」の味にとても大きく影響しています。

聞き取り調査の結果、「静岡県にふさわしいビール」のイメージが浮かんできました。「苦みが少なく、純粋な味わい」「色は淡い黄金色」「ホップが爽やかに香る」、飲みやすいビール。これらをカタチにするのが私の仕事なのですが、どの原料で、どのような製法を使うか大変悩みました。麦芽100%にすると重い感じのビールになるところを、製法を工夫し、「ファインアロマホップ」を一部使用することで爽やかさを実現。上質でまろやかな味わい、富士山の雪をイメージしたクリーミーな泡、さらにクリアな後味のため、仕込にオールインフュージョン法を採用しました。また、醸造過程の温度管理、状態の観察には気を使い、工程管理もこれでもかというくらい徹底しました。

そして、数種類の試作ビールを社内だけでなく、一般のお客様にも試飲していただき、選ばれたのが今の「静岡麦酒」の味です。正直、私の予想と異なる反応もあったりして、それも含め大変勉強になりました。

― 静岡麦酒が好評です

2013年の発売以来、おかげさまで出荷も順調に推移しています。静岡県だけで飲める樽生ビールとして、観光、ビジネスなどで静岡県を訪れるお客様はもとより、地元静岡県民の方々に支持されているのがうれしいです。私が何も言わなくても、「静岡麦酒」を飲んだ方から「後味爽やかで、さっぱりしていておいしい」と言っていただけます。コンセプト通りに評価されるのは、つくり手としては最高の褒めことばです。
これからも、「静岡が好きだから宣言」を具現化していきたいですね。静岡県は富士山や南アルプスの伏流水に恵まれ、水源が豊富にあります。この恵まれた環境の中で、静岡県の活性化や静岡県に伝わる伝統や文化、イベントに役立つような商品の開発を目指します。そもそもサッポロビールの新商品はこの商品・技術開発センターで開発されているので、ほとんどが静岡生まれと言っていいかもしれません。