- 「今回の焼酎の開発プロジェクトは、私が属している開発部門だけではなく、営業、製造、宣伝といった社内のさまざまな部署から集められた人員で構成されていました。それぞれのセクションの知見を活かして新しい製品を考えようという“スクラム開発”というものだったんですね。そこで、焼酎市場のド真ん中を狙える商品の開発にあたったのです」
焼酎の市場では、芋と麦、次いで米という順序でシェアが分かれている。新商品は“焼酎市場のド真ん中”を狙えるものでなければならないことから、麦焼酎に焦点があてられた。出合は、中村がリーダーを務める麦焼酎開発のプロジェクトチームに加わることになった。
- 「私の場合は、サッポロビールなのだから、やはりまずは麦焼酎の市場で何か提案できないかと常に考えていました。お客様もビールと聞けば麦を連想されますし、幸い当社には長年の研究・開発により麦に関する知見は豊富にあり、原料面では自信をもって取組める。また、焼酎の仕事を始めた頃から市場の麦焼酎をみて、麦の特徴が出ているものはないな、とも思っていました」
出合と中村は、これまでもわさび焼酎「つんと」や、ジンジャー焼酎「トライアングルスムース」などの開発/製造で、二人三脚の新製品開発に携わってきた。ここで麦焼酎の同チームになったことで新しい商品のコンセプトが見えてきた。
- 「これまでの焼酎というのは“全麹”など、麹を前面に押し出したもので独特の酒くささがありました。ここに抵抗を感じるお客様もいたんですね。また、従来の麦焼酎の市場でシェアのある製品は「本当に麦の香りや香ばしさを出しているのか」と考えると疑問でした。そこで、この2つを掛け合わせて「アルコール臭をおさえた、麦の香り・香ばしさのする焼酎」はどうか、と考えたのです」
- 「技術の面からいうと、まず麹の特徴をあえて抑えるために麹の配合を低くしました。さらに麦の香ばしさを出すためには精麦しない殻がついたままの麦を使うことにしました。(一般的に焼酎の麦は外側を35%程度削って使用されます)。こうすると、麦の香ばしさが出せるんです」
試作は、「アルコール臭をおさえた、麦の香りのする焼酎」というコンセプトで、まず14~5種類が作られる。これを元に出合のいる開発セクションで、マーケティング調査のための試飲を通して意見を募り、それをフィードバック。さらに改良し、4~5種類の試作に絞り込む。元のコンセプトがしっかりしていたため、試行錯誤には至らなかったという。
- 「試作の段階だと、われわれは素の状態で飲むんですね。つまりストレートで味わうのですが、実際にお店や家で飲む場合はロックや、お湯割り、水割りで飲まれることのほうが圧倒的に多い。そこで「そろそろこれでイケるんじゃないか」という最終段階に入ったところで、色んな飲み方をしてみました。ロックで氷が多少溶けても、水やお湯で割っても麦の香りがしっかり残るように、というわけです」
最終段階のこのチェックでも、「アルコール臭をおさえた、麦の香り・香ばしさのする焼酎」というコンセプトはしっかりと残るように作られており、試作は完成品へと至った。新しい麦焼酎「ささいなた」の誕生だ。
- 「“ささいなた”の“ささ”というのは古語で“酒”を意味する言葉。“いなた”は“稲妻”です。つまり、衝撃的なうまさの酒という意味ですね。ラベルの金色は豊穣な麦畑を表しています。そこから蛙が飛びだしている…これは、親しみやすいキャラクターをあしらいたかったからなのです。パッと見てすぐに覚えてもらうには、名前よりも絵のほうが良いと考えました」
また、ラベルにある“ささいなた”のロゴ上にあるマークは稲妻を表しているのだとか。ラベル全体で見ると、稲妻に驚いた蛙が大きく麦畑から飛び上がっているように映る。
- 「ネーミング案は150近くあったのですが、最終的に“ささいなた”でいこうと決めました。「麦の○○」とかいう案も対抗として多くありましたが、はっと訴えるものは、この「ささいなた」以外になく、メンバー全員の意見が一致しました。」