お店の「手作り」表現
飲食店は“箱”という言い方もされます。お客様を招き入れる空間は飲食店のステージとなるわけです。ここにお店側が随所に手作りを演出して、そのお店ならではの個性をアピールしてお客様に楽しんでいただきたいものです。決して「美術品」である必要はありません。むしろ「素人作品」がお客様との距離を縮めるのです。
お客様手書きのメニュー
千葉県にある東京に隣接した駅近くの居酒屋は、店頭にある木彫りの看板が目を引きます。店内に入ると、筆で書かれた木札のメニューが壁にずらりと掲げられています。これはお客様に書いていただいているもの。細い文字もあれば、たまには達筆のものもあります。木札の裏側には「ただいま婚活中……」とか「給料上げて……」とか書かれているそうで、神社の絵馬のような感覚です。こんな具合で、正月に木札メニューを一新して、新しいものをお客様に書いていただきリニューアルしています。これを書いたお客様はSNSで発信します。お友達を連れてきて「あの木札は俺が書いたんだよ……」と自慢します。フードメニューもドリンクも、自分が書いたメニューを必ず注文するそうです。
DIYでお店を造る
2015年の春先にフェイスブックで、あるお店をDIYで造り替えている様子が約1カ月にわたり公開されていました。例えば、トイレを和式から洋式に変更したり、壁塗りを複数のスタッフで手掛けたり、コンクリートのミキサー車に来てもらったり……。“手作り感”が強烈に伝わり、次にアップされる画像を楽しみにしていました。どのようなお店になったのか見にいきました。同店はJR大崎駅から10分以上離れた住宅街の路面にありました。店内は25坪程度ですが思いのほか重厚な雰囲気が漂っています。クラフトビールのタップや、ワイングラスハンガーの金属の輝きが、ウッディな空間に素敵なアクセントとなっています。何より、スタッフの対応に人間味があります。自分たちでお店を造った自信が目の輝きから伝わってきます。カウンターに一人でいると、問わず語りで会話が弾みます。飲食店を“サードプレース”という言い方がありますが、この空間は紛れもなくそれであり“隠れ家”です。平日は20時過ぎごろから帰りがけの地元の人が訪れるとのことですが、週末は満席となります。スタッフとお客様は“ヒューマン”でつながっているのでしょう。
個性が宿るコルク人形
ワインバルでは、コルクで看板を造ったり、お店の装飾に生かしているところがたくさんあります。ワインへの愛着をそこはかとなく感じさせます。六本木でおいしい肉料理がリーズナブルに楽しめるワインバルがあります。ここのスパークリングワインのコルクとワイヤーキャップで作った人形が秀逸。コルクをボディにしてワイヤーキャップのワイヤーを手足のように組み立てると、ユニークで擬人的な表現ができます。コルクに表情を描くと、自ずと別々の個性が宿ります。同店では、この人形にPOPやウェルカムカードを持たせていますが、これを記念日等で来店したお客様に作って差し上げると、お店の好感度はグッと高まります。
※2016年rise秋冬号より抜粋