第96回箱根駅伝
優勝監督インタビュー
青山学院大学
原 晋 監督

「12月10日のチームエントリーの段階で『勝てるな』と思えました」

第96回箱根駅伝は、青山学院大学が2年ぶり5回目の総合優勝を果たした。前回王者の東海大学、前回2位で11月の全日本大学駅伝でも2位だった青山学院大学、学生長距離界のエース・相澤晃を擁する東洋大学、高い総合力を持つ駒澤大学、10月の出雲駅伝で初優勝を飾った國學院大學が〝5強〟と呼ばれる中、青山学院大学は大方の予想を覆して「先行策」を採り、見事に往路優勝と総合優勝を飾った。
10区間中7区間で区間新記録が生まれた高速レース。会心の継走で激戦を制した青山学院大学・原晋監督が今大会の勝因を語った。

意外性のあるオーダーでも「先行策」は想定通り

先手必勝――。まさにそんな言葉が当てはまるレースぶりだった。青山学院大学は1区に当日変更でエースの𠮷田圭太(3年)を起用。𠮷田はトップと18秒差の7位につけると、2区に抜擢された1年生の岸本大紀が6人を抜いて首位を奪取。差がつきにくい1区にエースを、最長区間である『花の2区』に1年生を投入するという〝セオリー無視〟とも言えるようなオーダーながら、主導権を握ることに成功した。
3区では主将の鈴木塁人(4年)が圧倒的な強さを見せた東京国際大学のヴィンセント(1年)に首位を明け渡したが、最大のライバルと目された東海大学を51秒差まで引き離す。4区では吉田祐也(4年)が1時間0分30秒の区間新記録で再び先頭へ。5区の飯田貴之(2年)も区間新記録(区間2位)の好走で首位を堅守。大会前に「戦術駅伝」という言葉を多く用いた原晋監督の智略が光る往路優勝だった。

「今大会は〝5強〟と言われていましたが、データ的に見れば本当に優勝を狙えるのは東海大学とウチだと思っていました。東海大学の1区はおそらく鬼塚選手(翔太、4年)で、ブレーキなく先頭集団に近いところで来るだろうという想定をする中で、𠮷田圭太なら悪くても同じくらいで走るだろうと考えていました。それなら2区で岸本が先頭集団で戦える。3区の鈴木も絶好調でしたし、4区の吉田祐也と2人でトップまで行ける。ただ、5区には東海大学の西田選手(壮志、3年)がいるので、そこまでに貯金が2分は欲しいという気持ちでした」

チームを2年ぶり5回目の総合優勝に導いた青山学院大学の原晋監督

1区を𠮷田圭太に任せたのは留学生の出走を見越してのことだったが、結果としては留学生が不在でも高速レースになり、采配としては〝正解〟だった。そして、2区の岸本も上級生と遜色ないトレーニングができており、重要区間を任せられるだけの信頼感があった。
こうして往路で主導権を握った青山学院大学は、復路でも各選手が積極的なレースを展開。終わってみれば2位の東海大学に3分2秒差をつけ、2年ぶりに王座を奪還した。

低迷期からの脱却

前回の箱根駅伝で2位に敗れてから、チームは近年になく苦しんできた。3月の日本学生ハーフマラソン選手権は吉田祐也(当時3年)の18位が最高。5月の関東インカレ(2部)では、箱根駅伝で初優勝を飾った2014年度以降では初めて5000m、10000mでの入賞者がゼロだった。7月のユニバーシアード(イタリア・ナポリ)にも代表選手を送り出せず、原監督は「夏合宿までは話にならない状況で、下手したら箱根駅伝はシード権を落とすことも考えられた」と、どん底の状態だったことを明かす。
光が見え始めたのは夏合宿から。「1次合宿で故障者ゼロ、2次合宿でも1割程度しかおらず、これは自信になりましたね」と原監督。充実の夏を消化したチームは、例年と比較しても見劣りしない戦力を整えて駅伝シーズンに突入した。出雲駅伝(5位)と全日本大学駅伝(2位)は優勝には届かなかったが、両大会とも一時はトップに立つなど存在感を見せた。

「データ的には過去5年のチームと同じようなタイムが出てきたのが夏合宿以降です。そこから、『今季も強いのではないか』と思えるようになってきました。これを証明できたのは2つの駅伝。出雲は優勝もあれば5位もあると思っていて、想定内だったので順位は気にしていません。それよりも常に先頭争いができたことで、今季も戦えるなと。全日本も最終区まで先頭だったことで、『これは強いな』と実感できました」
低迷期にあったチームに対しては、原監督が選手たちに競技への姿勢や覚悟を問う場面も多かったという。それを選手たちが受け止め、組織として成熟できたからこそ結果につながったと原監督は考えている。

「大事なのはターゲットを明確にすること」と原監督

データに蓄積された確信とレースで外さない〝真の強さ〟

今季は絶対的なエース、原監督の表現を借りると「ゲームチェンジャー」と言われる選手がいないなか、全員が任された区間で力を発揮した。1区の𠮷田圭太は区間7位ながら、「先頭と100m離されることはない」という指揮官の期待に応え、残りの9選手も「全員が区間5位以内で走れば優勝が見えてくる」(原監督)という走りを遂行した。そこからは原監督の采配のうまさと、どんな状況でも能力を発揮する選手個々の『駅伝力』の高さが垣間見える。

1区にはエースの𠮷田圭太を、2区には1年生の岸本大紀を配置。思い切った采配でレースの主導権を握った

「2つの駅伝、11月の10000m記録挑戦競技会の結果、そして12月上旬の強化合宿。これらを見て、優勝した4年間と、箱根駅伝では負けたけれど、青山学院史上最強世代だった昨年度と比べて、変わらぬ結果、練習ができていました。それを経て、12月10日の16名のチームエントリーの段階で『勝てるな』と思えました。
練習に関しては大きく内容は変えていませんが、大事なのはターゲットを明確にして、トレーニングも目的を理解させること。だからウチは11月のハーフマラソンは、コースがフラットな上尾ハーフマラソンではなく、世田谷246ハーフマラソンを選びます。コース的に、箱根駅伝を想定した練習になります。10000m記録挑戦競技会にしても、あくまでもスピード練習のひとつ。調整すればもっと記録が出ると思いますよ。でも、あの時期にそれは必要ありません。記録よりレース内容のほうが大事で、記録が出たとしてもただついていっただけなのか、自分でレースを作ったのか。そういったところも重要だと考えています」

今回の優勝メンバーを含め、箱根駅伝経験者は7人が残る。さらに、1月のハーフマラソンでは1時間3分を切る1年生が続出するなど、来年度に向けてすでに選手層は他を圧倒するものがある。
「1月は基本的に〝放牧状態〟ですが、各レースでの下級生の走りは頼もしい限りです。今回の箱根駅伝で出した大会記録(10時間45分23秒)は簡単に破れるものではないと思いますが、それに迫る力はあるかもしれません。そうなったら今大会とは違い、〝1強〟になれると思います」

令和の時代も、青山学院大学が常勝街道を突き進むかもしれない。

Vメンバー4人が卒業しても戦力は充実。チームは連覇に向けて動き出している

第96回箱根駅伝 
優勝 青山学院大学

区間(距離) 選手名(学年) 順位 区間成績
1区(21.3km) 𠮷田 圭太③ 7位 7)1.01.31
2区(23.1km) 岸本 大紀① 1位 5)1.07.03
3区(21.4km) 鈴木 塁人④ 2位 4)1.01.32
4区(20.9km) 吉田 祐也④ 1位 1)1.00.30=区間新
5区(20.8km) 飯田 貴之② 1位 2)1.10.40=区間新
6区(20.8km) 谷野 航平④ 1位 3) 58.18
7区(21.3km) 中村 友哉④ 1位 4)1.03.23
8区(21.4km) 岩見 秀哉③ 1位 2)1.04.25
9区(23.1km) 神林 勇太③ 1位 1)1.08.13
10区(23.0km) 湯原 慶吾② 1位 5)1.09.48
往路 優勝 5.21.16
復路 2位 5.24.07
総合 優勝 10.45.23

◎文=田中 葵
◎撮影・編集協力=月刊陸上競技/陸上競技社