箱根駅伝を運営する
関東学連幹事の「思い」

いまや国民的大イベントとなった箱根駅伝は、関東学生陸上競技連盟が主催している。その特徴は〝学生主体〟で大会を運営している点だ。箱根駅伝に向けては多くの学連幹事の力を結集し、その準備に膨大な時間と労力をかけてきた。
年明けに迫った第96回大会の準備が佳境を迎える中、4年生の学連幹事2人に関東学連の業務内容ややりがい、最後の箱根駅伝に向けた抱負などを聞いた。

学生主体で競技会を運営

箱根駅伝に出場する関東地区の大学は、関東学生陸上競技連盟(以下、関東学連)に加盟している。一方で、箱根駅伝など大会の運営に携わりたいという学生は、まず大学の陸上競技部に入部し、そこからの出向というかたちで関東学連の学連幹事になると、運営側に回ることができる。

関東学連は箱根駅伝をはじめとする競技会を主催・運営している。「箱根駅伝」と「同予選会」のほかに、5月の「関東学生陸上競技対校選手権大会(通称:関東インカレ)」や「トワイライト・ゲームス」など、1年に10大会を開催している。

事務所は東京・千駄ヶ谷にあり、平日はほぼ毎日、授業を終えた後に学連幹事が集まり、各種行事の準備などをこなしていく。今年度は早稲田大学4年生の森菜々穂幹事長を中心に、総勢35人の学連幹事が協力し合い、ここまで8大会を開催してきた。

北海道・旭川東高時代に陸上競技部のマネージャーだった森さん。大学でも当初は競走部のマネージャーを希望していたという。

関東学連幹事長の森菜々穂さん(左)と常任幹事の伊藤舜さん

「競走部の1年生マネージャーは、4月に学連事務所を見学するのが慣例になっていて、その時に初めて箱根駅伝などを学生が運営していることを知りました。そして、学連幹事なら自分の大学だけではなく、他の大学の選手もサポートできますし、裏方で大会を作っていくことに魅力を感じて、6月から学連幹事として活動するようになりました」

森さんは大学入学当初はマネージャー志望だったという

森さんと同じく1年生の6月から学連幹事の一員となった千葉大学4年生の伊藤舜さんは、中学・高校時代は長距離選手として活動していた。

「実力的にも高かったわけではないですし、大学からは選手をサポートする側に回りたいと考えていました。高校の顧問が『関東学連という組織があるんだよ』と勧めてくれたのがきっかけで、高校3年生の時に詳しい話を聞きに来ました。そこで当時幹事長を務めていた千葉大学の先輩から説明を受けて、箱根駅伝のような規模の大きな大会を学生主体で運営していることに興味を持ち、自分もやってみようと決めました」

高校生の時から関東学連に興味を持っていた伊藤さん(右)

学連幹事の業務内容はいくつかの担当に分かれている。1年生はまず、7月頃までひと通りの業務を経験。希望や適性などを考慮しながら、話し合いによって振り分けられ、8月からは各担当で先輩の指導を仰ぎながら専門的な業務に従事するようになる。

主な担当としては審判、印刷、報道、登録、記録、会計等があり、次年度の幹事長の候補となる3年生は副幹事長として幹事長の業務を支えながら、次年度に向けて一連の流れを把握する為に、業務に従事する。森さんは前年度に副幹事長として業務を行い、今年度は幹事長として、学連幹事をまとめる役割を担っている。「副幹事長の時に、各大会で幹事長に付いて一緒に動き、自分が幹事長になった時に困らないように経験しておきます」と森さん。さらに、伊藤さんは「幹事長の業務は多岐にわたるので、各学年で幹事長になる者をあらかじめ決めておかないと、急にやるとなってもなかなかできないのです」と補足する。

コンセプトは「楽しめる競技会作り」

伊藤さんの担当は報道。大会の時の取材可能エリアを設定し、選手と報道陣が適切な距離感で取材ができるように調整するのが役目だ。

「メディアの方々はできるだけ選手に近づきたい。でも、選手には迷惑がかからないようにしないといけない。その擦り合わせがポイントで、事前にきちんと準備することももちろんですが、実際に現場で選手や記者さん、カメラマンさんの要望を聞いて、臨機応変に対応することが大切だと感じています」

箱根駅伝では中継所ごとに人員を配置。上級生を中心に「ドラフト会議」が行われて役割が決まっていく

他には、大会の際に地域の陸上競技協会に審判派遣を依頼する「審判」、大会プログラムやポスターなど、発行物全般に関わる「印刷」、関東学連に所属する約8500人の競技者の情報を管理する「登録」、大会のエントリー時に整理し、大会当日には公式記録を出す「記録」、学連幹事が申請した交通費や経費を確認して支給する会計がある。特に人手が必要なのは審判と記録だが、どの担当が欠けても組織は成り立たない。大会の開催に向けては、パソコンの中に大会ごとに資料をまとめたフォルダが存在し、それを手がかりに準備を進めていくことになる。

大会を運営するにあたり、今年度は2つのコンセプトを掲げている。

「ひとつは、選手、審判、観客の三者が楽しめる競技会作り。そして、もうひとつが、細かい課題や要望を拾っていくことです。大会が終わると各担当から報告が上がってきます。その細かい改善点や反省点を生かして、次の大会をより良くしていきたいと、ここまでやってきました」(森さん)

大会を作り上げる魅力

関東学連で学連幹事としての役目をこなす一方で、学業を怠ることはできず、上級生になれば就職活動もある。他の学連幹事とともに、そんな多忙な日々を送ってきた森さんと伊藤さんは、学連幹事の業務にそれぞれのやりがいを見出している。

「大会で観客から歓声が上がった時に、『大会を作ったんだな』と実感し、鳥肌が立ちます。初めて箱根駅伝の運営に携わった時は、ひとつやり遂げたという達成感がありました。選手が競技をし、審判や観客がそれを支えたり応援して楽しんだりする場を、自分たちで考えて作り上げていけるところにやりがいを感じています」(森さん)

関東学連は箱根駅伝をはじめ、年間10大会を運営。今年度は総勢35名で活動している

「選手が良い記録を出して喜ぶ姿や、観客のみなさんが選手を応援する姿を見ているだけでも、陸上競技の素晴らしさを体感できます。純粋に陸上競技が好きな者として、それを間近で見られることが魅力です」(伊藤さん)

箱根駅伝当日、森さんは大会総務として大会本部車に乗務し、主に先頭選手の後方に位置し、大会全体を統括する。一方の伊藤さんはスタート・フィニッシュ担当として、往路は大手町で、復路は芦ノ湖で選手を送り出した後、フィニッシュへと先に移動して選手を待つことになる。

森さんが「箱根駅伝は今大会で100周年。こうして100年も続いてきた伝統は大事に守りつつ、細かな部分で変革して、より良い大会にしたいと思います」と語れば、伊藤さんも「選手が安全に走り切れるような体制を整えるのが一番。それと、選手と観客の距離感を大切にしていきたい」と意気込む。その中の取り組みのひとつとして、今回の箱根駅伝では初めて陸上競技部以外から学生ボランティアを募り、新たに約40人が走路員として加わることになった。「多くの協力があって箱根駅伝が成り立っているところを見ていただけたら」と森さんは言う。

平日はほぼ毎日、授業が終わると東京・千駄ヶ谷の事務所にメンバーが集まる

2人を含めた4年生にとって、学生最後となる箱根駅伝がまもなくやってくる。