「箱根駅伝への想いをつなぐ」
インタビュー特集

選手のために、観客のために!
箱根駅伝を長きにわたり陰で支える箱根登山鉄道

箱根湯本——強羅間開業100周年となる箱根登山鉄道。来年で100年目を迎える箱根駅伝とほぼ同じ年月を経てきた、箱根観光を支える鉄道だ。箱根駅伝においては、毎年ハイライトとなる5区・6区を観戦するお客様を安全に輸送する体制がとられている。今回は箱根登山鉄道株式会社の取締役社長、府川光夫氏へインタビュー。箱根駅伝との関係について聞いた。

箱根登山鉄道と箱根駅伝

大正8年、箱根駅伝の第1回大会とほぼ同時期に開業した箱根登山鉄道。箱根駅伝をどのように支えて来たのか、府川社長に聞いてみた。

「箱根登山鉄道としては、箱根駅伝を観にいらっしゃる方々をいかに安全にお運びするか、が命題です。箱根駅伝の観戦には大勢お客様がいらっしゃいますので、何かトラブルが起こって大会そのものに支障が出てはいけません。各駅に配置する駅員を警備やご案内も含めて大幅増員し、場合によっては入場規制をしたり、臨時列車を運行したり、さまざまな工夫をしています。」(府川社長)

箱根駅伝の当日、最も混雑する駅は『箱根湯本』だという。次いで、第93回(2017年)より往路・復路ともに鈴廣前に変更になった小田原中継所の最寄り駅『風祭』。駅構内の混雑緩和はもとより、周辺の混雑緩和の対応も主催である関東学生陸上競技連盟の学連幹事や警察署、地元関係者と協力して行っているそうだ。

「今年の第95回大会は『風祭』駅対応要員を25名に増員(通常は2名のみ)しました。また、『箱根湯本』では対応要員を35名に増員(通常は13名)。『小涌谷駅』は通常1名のところ13名体制に増やしています。『大平台』〜『小涌谷』の混雑が緩和されるまでは『箱根湯本』や『宮ノ下』では入場規制を実施し、『箱根湯本』〜『大平台』は回送にして、強羅方面には途中駅から乗車できるようにしています。『大平台』始発『強羅』行きの臨時列車も運行するなど、さまざまな方法で混雑緩和を図っています。」(府川社長)

箱根駅伝を盛り上げる、こんな取り組みも

鉄道会社として観客を安全に輸送するだけでなく、地元を通る正月の風物詩・箱根駅伝を盛り上げる、独自の取り組みも行なっているという。

「2016年と2017年には『箱根湯本』駅構内に、駅伝選手への応援メッセージボードを設置。選手の励みになればと、お客様に、短冊に応援メッセージを記入していただき、ホワイトボードに掲示しました。2016年は887枚、2017年は947枚。1000枚近いメッセージが集まり、大いに盛り上がりました。

ちなみに、箱根駅伝往路の最終区間である5区の選手はだいたい『箱根湯本』駅を12時20~30分ごろ通過して、14時ごろ往路フィニッシュとなるのですが、観戦に慣れた早い人は9時ごろから電車に乗って、上へ上へと登っていきますから。私が往路フィニッシュ地点へ向かうため7時過ぎに『小田原』駅を乗りこむと、もう駅伝観戦に行く方々が乗っていますからね。そのぐらい前から場所取りで来ている人もいるのですから、すごい盛り上がり、すごい熱量ですよ。」(府川社長)

駅伝の選手と登山鉄道はどっちが速い?

箱根駅伝では、実際に沿道で応援すると選手たちのスピードの速さに圧倒される。まるで飛ぶように走り抜けて行く選手たち。すると気になる「電車と選手、どちらが速い?」という素朴な疑問を府川社長に聞いた。

「箱根登山鉄道の最大傾斜は80パーミル。つまり、1000m進むと80m上がり、12.5m進むだけで1mもの高さを登ることになる。箱根登山鉄道の電車が、前へ進んだり後ろに戻ったりしながらジグザグに登る、スイッチバックを繰り返して登っていく日本で一番急勾配のところを選手は走って上ってくるのですからね。すごいですよ。

『大平台』から『箱根湯本』までの山下りの登山電車の所要時間は約15分ですが、駅伝選手は約13分で走るそうです。電車よりも速い駅伝選手のスピードには驚きました。山下りの選手は1歩の歩幅が2m以上にもなると言われています。地元では「走る」ことを「飛びっくら」とも言うのですが、まさに、飛ぶように走る選手たちにぴったりの表現ですよね。

一見、上りの方がツラそうですが、聞いたところによると、復路の方が大変だそうです。当社の6区を観戦したスタッフの話では、芦ノ湖スタート前の練習の時と『箱根湯本』を通過する選手の表情は同じ人とは思えないほど苦しい表情に変わるそう。急な坂道を下り続けると、最後の平坦な3kmが上り坂に感じるほどキツイそうですよ。」(府川社長)

印象に残っている選手や思い出深いエピソードは?

もうすぐ100回を迎える箱根駅伝だが、当初は今ほどの盛り上がりではなかったそう。転機は、32年前(第63回大会)からテレビ中継で全国放送されるようになったことだ。

「テレビ中継が始まって、観客数がぐんと増えました。特に、〝山の神 〟と呼ばれる選手——順天堂大学の今井正人選手(2004~2007年出場。5区を走ったのは2005~2007年)や、東洋大学の柏原竜二選手(2009~2012年出場)、青山学院大学の神野大地選手(2014年~2016年出場。5区を走ったのは2015~2016年)らが出場した大会でのお客様の数はすごかったですね。中でも、柏原選手が4年生で出場した第88回大会(2012年)は沿線が大混雑で、大変でした。」(府川社長)

最後に、「私たちにとって箱根駅伝とは?」

最後に、箱根登山鉄道の皆さんにとって、箱根駅伝とはどんな存在なのかを聞いてみた。

「箱根駅伝は、箱根登山鉄道にとっても一大イベントです。箱根駅伝は当社で開催しているものではありませんが、外部との連携の中でやるというのは当社としてもユニークな取り組み。2日間、しかもお正月にやるという点も大きい。箱根のお正月は箱根駅伝とともにやって来ます。私たち箱根登山鉄道も2日は全社員が出勤する、いわば〝仕事始め〟です。社員一丸となって取り組む1年で一番忙しい日です。大忙しの〝初出勤〟は1年の始まりを告げる、箱根登山鉄道にとってもお正月の風物詩。2日、3日がうまくいけば、1年うまくいくかな、という気がします。

また、お正月に何時間も箱根を映してくれる箱根駅伝は、箱根という地名をアピールするいい機会。日本にはまだまだ『箱根駅伝は知っていても箱根を知らない人』がいるので、テレビ中継の時にプラスアルファで箱根の温泉や観光情報の紹介をもっとしてくれるといいですよね(笑)。新しい温泉場ができましたとか、こんな施設ができましたとか。箱根駅伝で初めて箱根登山鉄道に乗って、箱根のことを知っていただけたらうれしいです。」(府川社長)

箱根登山鉄道について

大正8年に開業した、日本有数の本格的山岳鉄道。小田原駅〜強羅駅までを運行。山の斜面を登るために進行方向を変えるスイッチバック、登録有形文化財となっている出山鉄橋(早川橋梁)などが名物となっており、乗車体験自体が観光の一部として楽しまれている。