渡辺康幸氏が見る
第96回箱根駅伝の展望

今回の箱根駅伝が〝戦国駅伝〟と称されるように、回数を重ねるごとに箱根駅伝ではハイレベルなレースが繰り広げられている。
前回大会は東海大学が初出場から46年目にして初の総合優勝を成し遂げた。今年度も全日本大学駅伝で優勝を果たすなど戦力が充実している。前々回大会までに4連覇を遂げた青山学院大学や、平成の時代を彩った駒澤大学、東洋大学。そして、今年度の出雲駅伝で初めて学生三大駅伝のタイトルを手にした國學院大學なども優勝候補に挙がり、新しい年号で迎える今大会もまた激戦が予想される。
12月10日のチームエントリーを終え、各校の戦力が見えてきたところで、かつての箱根駅伝のスターであり、2010年度に早稲田大学駅伝監督としてチームを学生三大駅伝3冠に導いた渡辺康幸氏(現・住友電気工業株式会社 陸上競技部監督)に今大会の展望を聞いた。

優勝争いは東海大学が中心

チームエントリーを終えて、各大学にはいろんな情報が入ってきます。監督たちも本番までは水面下でいろんな駆け引きをしているところでしょう。

その中で、今回も前回覇者の東海大学が中心になると思います。エース格のひとりである關(せき)颯人選手(4年)と、6区で実績がある中島怜利選手(4年)がエントリーから外れましたが、戦力的にはそんなに落ちることはないでしょう。出雲駅伝も全日本大学駅伝も、この2人を起用できなくても戦えていましたし、6区は前回も候補に上がっていた小松陽平も下れるでしょうから。チーム内競争を勝ち残った選手を選んでいるだけだと思うので、かえって磐石な布陣になった印象があります。

第96回箱根駅伝を展望してくれた渡辺康幸氏

それに、ケガをしていた館澤亨次選手(4年)が戻ってきたことが大きいですね。館澤選手だけでなく、全日本大学駅伝を欠場した阪口竜平選手、鬼塚翔太選手を含め4年生が8人もエントリーされました。この学年は戦力が充実しており、彼らが最終学年を迎えた今回こそ、勝つべくして勝つ年です。さらに、名取燎太選手、塩澤稀夕選手、西田壮志選手といった3年生が飛躍し、松崎咲人選手(1年)ら下級生も力をつけてきた。やはり強いチームに仕上がってきました。

優勝争いの中心は前回覇者の東海大学

全日本大学駅伝で最終区まで優勝争いをした青山学院大学も、レース内容は悪くはなかった。箱根駅伝に向けた調整能力を考えると、東海大学の両角速駅伝監督も、青山学院大学が対抗と考えているのではないでしょうか。どこかで成功体験を積ませて選手に自信をつけさせるというのが原晋監督の指導法ですが、11月23日の10000m記録挑戦競技会では8人が28分台をマークするなど好記録が続出しました。例年通りの流れに乗せることができていると感じました。

青山学院大学も2年連続で5区を走った竹石尚人選手(4年)が外れましたが、彼は「青学大の16番手は強いから、(不調の)僕を外してください」と原監督に言ったと聞きました。一般的には、竹石選手のように実績のある選手であれば、とりあえず16人のメンバーには登録して、本番までの3週間でどこまで戻ってくるか様子を見ることが多いです。東海大学にも言えますが、それをしなかったということは、それだけ選手層に厚みがあるということでしょう。

また、青山学院大学も、鈴木塁人選手ら4年生がキーマンになるでしょうね。〝やっぱり4年生は強かったね〟という活躍を見せた時、原監督の〝やっぱり大作戦〟は成功となるでしょう。

奇襲を仕掛けるなら......

一方で駒澤大学と東洋大学は1年生を多くエントリーしています。もちろん今回も優勝を狙っていると思いますが、来季以降も見据えたメンバー編成のような気もしました。もしくは、本当に1年生に力があるのか、単に台所事情が厳しいのか……。

ただ、駒澤大学には1年生の田澤廉選手、東洋大学には相澤晃選手(4年)という大砲がいます。彼らをどの区間に起用するかでレース展開は大きく変わってきます。オーソドックスな戦術としては、エース区間の2区か4区に起用すると思いますが、選手層の厚い東海大学と青山学院大学に勝つには、何か刺激がないとなかなか上には行けないと思います。勝つためにはどこかで奇襲を仕掛けなければいけない。

例えば、1区に田澤選手、相澤選手を起用するというのはどうでしょう。おそらく東京国際大学も1区に留学生を起用してくるでしょうから、3人で競り合えば大きな貯金が作れると思います。相澤選手、田澤選手、イエゴン・ヴィンセント・キベット選手(東京国際大学・1年)の3人が、佐藤悠基選手(現・日清食品グループ)の区間記録を狙って走るのを、私も第1中継車から見てみたいです。

レース全体のカギを握るのは東洋大学の相澤晃。前回は4区で区間新記録を樹立した

もちろん相澤選手、田澤選手クラスの選手は、ひとりでも大逃げできる力があると思います。私が早稲田大学駅伝監督だった2011年に、当時1年生だった大迫傑選手(現・Nike)を1区に起用しましたが、決めたのは本当に直前のことでした。当初は3区を予定していたのですが、結果は区間2位に54秒差をつける大逃げになりました。1区は相当力のある選手ではないと逃げきれません。でも、彼らにはその力があります。駒澤大学は、2区には前回経験者の山下一貴選手(4年)を起用できますから、〝1区田澤プラン〟は十分にあり得ると思います。

一方、東洋大学が〝1区相澤プラン〟を実現できるかは、今季不調だった西山和弥選手、吉川洋次選手(ともに3年)がどこまで調子を戻しているかによるでしょうね。駒澤大学も東洋大学も、山は5区、6区ともに経験者がいるのは大きいと思います。

國學院大學は、2区土方英和選手、5区浦野雄平選手(ともに4年)は、前回から変えずにくるでしょうね。往路優勝、総合3位以内を目標に掲げていますが、十分にそのチャンスはありますし、往路で勝つことができたら、復路もその勢いに乗っていくでしょうね。

注目は帝京大学と東京国際大学

以上の5校が『5強』と言われていますが、その他の大学が番狂わせを起こすのはなかなか難しいと思います。5強に食い込んでくるとしたら帝京大学、東京国際大学あたりでしょうか。

帝京大学はちょっと読めない部分がありますが、メンバーを見ると、非常に良いチームなんですよね。全体的な走力はあるので、5強のどこかが崩れた時には、3位くらいまで上がってこられる力はある。山上りのスペシャリストとかゲームチェンジャーが現れれば、その上も目指せると思うのですが……。

東京国際大学は、全日本大学駅伝で4位に入りましたが、シード権は堅いと思います。〝第1中継車マジック〟というものがあり、テレビに映るところでは気持ち良く走ることができるものです。1区に留学生、2区に伊藤達彦選手(4年)でトップに立てば、そのまま流れに乗ると思います。

シード校が強いだけに、予選会からの大学がシード権を取るのは簡単なことではないでしょう。今回もシード権争いは熾烈になると思います。予選会からのチームでは、東京国際大学の他、私の母校の早稲田大学、明治大学あたりもシード権を取れる力があると思っています。

「シード権争いは熾烈になる」と渡辺氏。レースは最後まで目が離せない

箱根駅伝が創設されて2020年の第96回大会で100周年になりますが、やっぱり明治大学、早稲田大学、中央大学、日本大学といった歴史ある大学が低迷しているのは寂しく思います。伝統校の奮闘にも期待したいですね。

◎構成:福本ケイヤ
◎協力:月刊陸上競技/陸上競技社