サッポロビール園

早撃ちのガンマンを連想させる独特の注出スタイル

新岡 充(にいおか みつる)氏

姿勢を正しくしてジョッキを左手に持つ。指は、人差し指を把手内側上端に回し込み、親指を上から把手を挟むように乗せ、残りの3指でジョッキがブレないよう側面を支えている。
そして、持ち手の脇を軽く締め、腰だめに構えてから静かにカラン注出口まで持って行き、優しくジョッキの内側に当てる。位置は、通過するビールラインの開始点を想定。右手で素早くカランを開き注出を開始する。ビールが自然に渦巻くようジョッキの傾斜を計りながら注ぎ続け、完了間際、渦をさらに回すよう少しだけジョッキを起こす。ビールと泡が混在するジョッキ内の泡が4割程度の厚みになったらカランを閉じ、やや緩やかなサイドスローの軌跡を描いてカウンター前に提供する。
この間2秒。提供されたビールの泡との比率はしっかり7:3。
これが、キャリア23年、新岡氏の注出スタイル…。
まるで、使い慣れたハンドガンを素早く抜き撃ちするガンマンのようでもある。

  • カランを開きビールを注ぐ。
  • 一気に渦をつくりながらビールを流し込む。
  • 完了間際、ジョッキ角度をやや上げ、渦をさらに回す。
  • カランを閉じて提供。ここまで2秒。

ジョッキ角度を微妙に変えソフトな泡をつくる

「スウィングカランによる一度注ぎなので、ほどよい炭酸量になり、麦芽の甘さが感じられるふんわりしたビールになります。」と新岡氏。
さらに、「泡はクリーミーというよりもソフトな舌触りです。喉の中に入りやすく飲みやすい。」と語る。
スピーディーかつ優雅なフォームともいえる注ぎ方だが、変えることは?
「フォームは変わらないと思いますが、泡の付き方を見てジョッキの角度をコントロールします。」
「泡が付きづらいビールは、ジョッキの底面に落し気味にして泡をつくり、泡が多い時にジョッキの側面に流し込むようにして、余分な泡をつくらない注ぎ方をしています。」
カランから注ぎだされたビールの状態で、瞬時に泡の多少を見分けなければならない。さらに受ける側のジョッキの動きも微妙なはずである。やはり、プロならではの経験と技術が生かされているのだ。

スピード注出はビール園に来園されるお客様のために

ケッセルホールの名の由来となった巨大ケッセル(仕込み窯)。
その下が抽出カウンター

さて、新岡氏の2秒という注出速度はなぜ必要なのか…。
その答えはここビール園に来園されるお客様のためにある。ビール園にはグループ客向けに大量に注ぎだす「ピッチャー」メニューはない。さらに、時には500名規模のお客様に、同時にビールを提供しなければならない。
少しでも早く、注ぎたての最高のビールを飲んでいただきたいとの思いから生まれたのが、2 秒という注出速度なのだ。
サッポロビール園は1966年に開園し、2010年には来園者数3000万人を達成。常に最高のビールを休むことなく提供し続け現在に至っている。建物は1890年に建設された精麦工場。赤色に輝くレンガ壁が特徴で、空高くそびえる煙突とともに歴史を紡いで一世紀余り、当時のままの姿を保っている。飲食施設は「ジンギスカンホール(ケッセルホール・トロンメル・ポプラ館)」「ガーデングリル」「ライラック」の3つ。
新岡氏が立つのはジンギスカンホールのカウンターである。

いまでも師匠の姿を胸に注出を続ける新岡氏

新岡氏は1995年23歳で入社したが、実は1991年からアルバイトとして在籍していた。
「ビヤホールの雰囲気が好きでした。」フロアに関わる仕事から始まり、少しずつカウンターの仕事に従事し始める。
「2か月間ひたすら注出の練習をしました…。」氏には尊敬する二人の師匠がいるという。
「いまでも師匠の姿を思い出しながら注出しています。まだまだ師匠の境地には…注げば注ぐだけ上達できるはずです。」二人の師匠からは、貯蔵タンクへのビールの受け入れ、ガス圧管理、さらに、ビールの通り道の洗浄などメンテナンスの薫陶も受けた。そして、いま40代の初めにある氏は後進の指導に力を注いでいる。

本能的にビールの状態がわかるよう身体で覚えることが大切

「私の頃は、1つやれば10自ら考える勉強法…でしたが、いまは教える機会を設け、細かく実地指導しています。」
期間は「ジョッキ操作に1か月。一人で立てるようになるまで最短で3~4か月かけています。」という。
また「タンク内のビールが少なくなるにしたがって過飽和になり、泡の量が増え付き方が変化してきます。このような泡の違いを本能的に感じとって注出できるようになるには、さらに時間が必要。」という。
おいしいビールを提供するには、やはり、身体で違いを覚えることが大切ということなのだろう。

カウンターマンの楽しみはお客様との交流

「道内から、名指しで通ってこられるお客様がいます。嬉しいですね。」と笑顔になる新岡氏。
ジンギスカンホールのケッセルホールには、昔使われていた巨大なケッセル(仕込み釜)があり、ホール内を象徴する存在になっている。
その真下で新岡氏がジョッキを操り、スピーディーかつ優雅にビールを注出する…その貴公子然とした立ち姿からは、なにか放ってはおけない、声をかけずにはいられないオーラのようなものが感じられる。
女性のお客様は特にそう思われるのでは…。
ビヤホールにまつわる珍しく、そして面白い話題を期待して、一声掛けてみるのも一考ではないだろうか。

サッポロビール園

〒065-0007 北海道札幌市東区北7条東 9-2-10(サッポロガーデンパーク内)
TEL. 0120-150-550 FAX. 011-722-7326
【営業時間】11:30~22:00(ラストオーダー21:30)
【定休日】年中無休(ただし12月31日を除く)