ニユートーキヨー数寄屋橋本店

ニユートーキヨー数寄屋橋本店

チーフカウンター / 田中 邦忠(たなか くにただ)氏

「泡切り3年、注ぎ8年」美味しいビールを提供するための修業

田中 邦忠(たなか くにただ)氏

学生時代からビールが好きだった田中氏は、美味しいビールを自分のためだけではなく、お客様にも楽しんでもらいたいとの想いから、カウンターマンを目指し、平成元年にニユートーキヨーに入社した。
最初の3年間は、池袋東武のお店で洗い物のかたわらビールを注がしてもらっていた。そして4年目に当時の数寄屋橋本店に呼ばれ、ニユートーキヨーの伝説のカウンターマン小林修二氏のもとでカウンターマンとしての技術や心構えを徹底的に仕込まれることになった。その後、客席マネージャーなどを歴任し、平成29年6月9日の80周年の創業記念日に移転・開店した現在の数寄屋橋本店のチーフカウンターとして着任した。
小林氏のもとでの修行当時は、「泡切り3年、注ぎ8年」と言われていた時代。小林氏の背中を追いながら、目で見て、現場でしか経験できない感覚を覚え、懸命に技術を身に付けていった。

注ぐプレッシャーがなくなった時、ビールの声が聞こえるように

修行してから10年ほど経ったある日からビールの声が聞こえるようになった。もちろんビールが言葉で話しかけてくるわけではない。だけど、ビールは生き物。同じビールでもその日の気温、湿度などの環境や、200ℓタンク内の残量が違うと、微妙に「味」も「香り」も「音」も「泡立ち」も変わってくる。この五感に訴えてくる感覚が、「今日はこうやって注いでくれたら美味しくなるよ」とか、「今日の僕の味はこうだから、こうすればもっといい味が引き出せるよ」などと訴えかけてくるような感じになったのだ。
それからはこの声を頼りに、ガス圧の調整はもちろんのこと、基本的な注ぎ方から微妙に角度を変えながら注いだり、カランを閉めるタイミングをほんの僅かずらしたりして、その日のベストだと自負できるビールをお客様に提供するようになった。

親指が立ったら、「もうすぐ美味しいビールができますよ」のサイン

数寄屋橋本店では、スライドカランとスウィングカランをビールの種類によって使い分けている。メイン商品である「サッポロ生ビール黒ラベル」は、スライドカランで注出する。田中氏は、ビヤグラスを左手で持ち、右手でカランの操作をする。まず、グラスのほぼ中央を親指と、人差し指と中指で軽く握り、薬指で底を支えるように持つ。注ぐ前に、カランを開いてビールを流し台に落とし、カラン内の泡を放逐する。それから、グラスを斜め45度に傾けて、内側の真ん中より少し上に注出口を触れさせ、胸に向かって引くように素早くカランを開き、注出を開始。ここから一気にビールを注出するが、カランを閉めるタイミングで一瞬であるが親指を「いいね!」の形の様に立てて、そこからはじくようにカランを閉める。『ビールを最適な状態で提供するために、カランを閉めるタイミングを体が覚えて、「ここで決めるぞ」という時に無意識に出てしまう所作』だそうだ。そして、上面の粗い泡を切り、しばらく静置してから、お客様に提供する。ちなみにカランを開いてから閉めるまでの時間は僅か2~3秒ほどの一瞬の出来事だ。

  • 左手に持ったグラスを45度に傾ける
  • 注ぐ前に、カランを開いてカラン内の泡を放逐
  • カランを開いたら一気にビールを注出
  • このように親指が立ったら「もうすぐ閉じるよ」のサイン
  • 上面の粗い泡を切ってから、しばらく静置する
  • 優しく滑らせるようにジョッキを置いて提供する

注出が上手なだけでは一人前のカウンターマンにはなれない

「私たちは、朝起きたら歯を磨いて、顔を洗って、髪をセットしますよね。寝る前にはお風呂に入って身体を綺麗に洗って、歯を磨いてから寝ます。だけどビールは自分ではできない。だから私たちが代わりにやってあげないといけないのです」。田中氏にカウンターマンにとって大事なことを質問した時に返ってきた言葉だ。美味しいビールを提供するには、まず、常に清潔に保たれたジョッキやビール回路が前提条件。そして、もう一つがしっかり管理された貯蔵タンクのビールを使うこと。タンク内のビール量が多いときは甘みと旨味があり、減ってくるとビールの炭酸ガスが強くなるので酸味がでてくる。これを、ガス圧を調整することで極端な味覚に振れないよう毎日調整することが必要なのだ。ビールは、日々、綺麗な状態、最適な状態に保って、それから上手く注出してあげることで本当に美味しくなるのだ。

日本のビヤホール文化を担ってきたお店のベテランカウンターマン

昭和12年に、ここ数寄屋橋に誕生した老舗ビヤホール「ニユートーキヨー」。異国を想起させるクラシックな店内で、美味しいビールが飲めると、長年にわたり愛され、日本のビヤホール文化を担ってきた。創業80周年を機に現在の地に移転してきたが、今なお、古くからの常連さんが足繁く通ってくれる。このお店のカウンターでは、今日もベテランカウンターマンが鮮やかな手つきで次々とビールを注いでいる。このベテランカウンターマンが入れるビールを飲むためにわざわざ遠方から来店する人も多い。我々が目にすることのないところで品質が保たれ、我々が目にすることができるところでは鮮やかなパフォーマンスとしても見ることができる確かな手技で注出された美味しいビールを飲みに行く。それだけの価値があるお店だ。

ニユートーキヨー数寄屋橋本店

〒100-0006 東京都千代田区有楽町2-2-1 Xpressビル1F・2F
TEL. 03-6264-6538 FAX. 03-6264-6540
【営業時間】月~金、祝前日11:30~23:00(料理L.O. 22:30)、土、日、祝日11:30~22:00(料理L.O. 21:30)
【定休日】年中無休(ビルの休館日に準じる)