TSUMURA KIKUKO 今でもこれからも人間の実感を描いていけたら。本当のことを書いたとしても、そこには救いがあると思うし、それを言い続けたい。

08 TSUMURA KIKUKO 小説家 津村 記久子


つむら きくこ
1978年大阪府生まれ。2005年『君は永遠にそいつらより若い』(『マンイーター』より改題)で第21回太宰治賞を受賞しデビュー。2009年『ポトスライムの舟』で第140回芥川賞、2013年『給水塔と亀』で第39回川端康成文学賞を受賞するなど、著書多数。


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連載で描いているのは、J2の架空のチームを巡る
人々の悲喜こもごも。


現在、プロサッカー2部リーグ(J2)をモチーフに、架空のチームを応援する人々の群像劇『ディス・イズ・ザ・デイ 最終節に向かう22人』(朝日新聞夕刊にて連載中)を書かれていますが、これはどういったきっかけで書こうと思われたんですか?

津村 以前からサッカーは好きでよく見ていたんですが、2015年11月にふとしたきっかけでサッカーJ2のリーグ最終節に足を運んだんです。試合終了後に選手たちが観客席前に挨拶に来ると、20歳ぐらいのファンの女の子たちが選手は当然ながら、監督やトレーナーさん、最後は通訳さんまで、来た人全員の名前を呼んで手を振っていたのが、すごく面白くて。アイドルのコンサートに行ったとしても、スタッフの名前まで覚えて、キャー!って呼ぶことなんてまずないでしょ(笑)。そんなほんわかした試合がありながらも、一方で私の知人が応援するチームの試合はJ1昇格がかかったシビアな戦いで、ファンも疲労困憊するほどだったそうです。同じ日にこれほど対照的な試合が行われていて、その両局面にそれぞれの面白さがあることに興味を持ちました。それが一つのきっかけですね。

なるほど。それに加えて、津村さんがJ2の試合先で出会う方たちにも興味をそそられたそうですね。

津村 地方の試合を見に行ったら、必ずファンの人と話すようにしているんですが、松本山雅のスタジアムに試合を観に行った時15歳ぐらいのお嬢さんに、「よく観に来られるんですか?」と話しかけたんですよ。すると、「おばあちゃんとお母さんと3人でホームの試合は毎回観に来ています、いちばん応援しているのはおばあちゃんです」という話を聞いて、お年寄りにはすごいエネルギーがあるんやなあと思ったり、また、カマタマーレ讃岐を見に行った時は、対戦したギラヴァンツ北九州を九州リーグ時代から追いかけているご夫婦がいて、「●●選手は暑さに弱いから、これから暑くなるからどうしよう」と、まるで自分の家族のように話していたり。もう、会う人会う人、みんな面白いです(笑)。スタジアムでいろんな人に話を聞かせてもらったから、小説でもチームを取り巻くいろんな人々が、あるチームとそのシーズンを過ごすことで、人生がちょっとだけ違う方向へと変わっていく。誰かを応援することが日常の一部となっている人の背中をほんの少しだけ押すような、そんな物語を書いていきたいと思っています。

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大阪はお金がなくても
ブラブラしていられる“居場所”がある街。


津村さんが専業作家となった現在も大阪を拠点にされている理由は大阪が好きだからですか?

津村 できれば月の半分は大阪とは違うところに住みたいですよ。お金と時間の余裕がないのでできませんけど(笑)。そうは言っても、大阪を完全に出ていきたいとも思いませんが。大阪にいると、東京にいる作家は呼びにくいけど、大阪にいてるから呼んでみよか、といった講演会とかの仕事もあるし、ちょうどいいんです。そう考えると、私は大阪にいることも働いたことも、そこで書き続けていることもすべて利用してて、貪欲だなぁと思います(笑)。

最近は江弘毅さんと大阪について語った対談集『大阪的』(ミシマ社刊)も出されましたよね。自分の立ち位置を踏まえて客観的に大阪を見られる津村さんだからこそ、今の大阪に対して思うこともあるのでは? 

津村 普段話している時でさえ、全力で相手を楽しませてくれようとする人が多い街だなとつくづく思います。そこには損得はないんですよね。目の前の相手にウケたい。大阪では面白いことがすごいステータスやから。ここまで面白いことの価値が高いのは大阪だけじゃないですか。そんな風に人も街も個性がキツいのに、いかんせん日本で二番目の都市であるとか、小さな東京を目指しているところもあるじゃないですか。そんな第二の主流を目指すよりは今の個性を伸ばした方がいいですよね。大きな地方として開き直った方がいいんじゃないかと思います。

大きな地方として開き直ることで、大阪は今までとは違う大阪になれるということですか?

津村 変わろうとか良くなろうとかしなくても、今まで通りでいいんじゃないですか。すでに個性があるんやから。『大阪的』でも話しているんですが、大阪は“居場所”がある街なんですよね。東京と違って、お金がなくてもブラブラしていられるという(笑)。それは海外からの観光客をはじめ、大阪に住んでいる人も被っている恩恵だと思います。それは大阪独特の感覚なんじゃないですか。私も生まれてからずっと住んでますけど、住みやすいところですよね、大阪は。私たちはあまり気付いてないですが、他所の人に言わすと食べ物もおいしいらしいし、それだけ揃っている都市は、実は少なかったりするので、私はそのままでいてほしいです。

最後に、津村さんが今後描かれるであろう主人公や、描きたいストーリーとは?

津村 今までもこれからも人間の実感が描けていたらいいなあと思いますね。嘘じゃなく。こういう風に描いたら自分も読む人も気持ちよくなるんやろうなあということがあったとしても、それが嘘やったら意味がないと思うので、本当のことに寄せて書きたいと思います。本当のことを書いても救いがあると思いますし、それを言い続けたい。人は本当は何を考えているのかを小説に書いていければと思っています。

「大阪的」

ミシマ社 1,000円(税抜き)

芥川賞受賞作家と関西の名物編集者が怒濤の勢いで大阪のええとこ、あかんとこをとことん語った対談集。大阪から日本のローカルのあり方が見えてくる。書き下ろしエッセイも収録。

【取材協力】

おばんざい酒場 山本

大阪府大阪市西区阿波座1-9-16
TEL: 06-6537-2100

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