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ワインの歴史を変えた!?ブドウの天敵!害虫「フィロキセラ」の恐ろしさ

良いワイン造りには良いブドウが欠かせません。しかし植物であるブドウの品質は、自然現象や環境によって左右され、毎年変わります。
ブドウの品質を落としてしまう原因の中で、注意すべきものの1つが病気や害虫です。有名なものに「フィロキセラ」がありますが、耳にしたことはあるでしょうか。
フィロキセラは、ワインの歴史を変えたとも言えるブドウの害虫です。ワインの造り手たちがフィロキセラと長年にわたって戦い続けた苦労を知ると、いつも飲んでいるワインの味が変わって感じられるかもしれません。ここでは、フィロキセラについて詳しく解説します。

ワインの歴史を変えた!?ブドウの天敵!害虫「フィロキセラ」の恐ろしさ

ワイン造りを脅かしていた、ブドウの害虫

19世紀、ブドウの三大病虫害として、ヨーロッパではベト病、うどんこ病、フィロキセラがブドウ畑を襲いました。ベト病とうどんこ病はカビによる病気だったため、カビを予防する薬剤が開発されて、事態は改善されていきました。

しかし、フィロキセラは土の中のブドウの根につく害虫であったため、直接薬剤をかけることができず、なかなか有効な対策が打てませんでした。1860年代のフランスからはじまったフィロキセラの被害は、フランス中のブドウ畑を壊滅的な状態に陥れ、さらにはイタリアやスペインをはじめ世界各地を襲った恐ろしい害虫でした。

「ブドウの木を死なせてしまう」フィロキセラとはどのような虫なのか、そして当時ワイン造りを行ってきた人々はどのようにして害虫と戦ってきたのか詳しくみていきましょう。

ブドウの害虫「フィロキセラ」とは

ワイン造りに欠かせないブドウの木、それを死なせてしまうフィロキセラ。どんなに恐ろしくおぞましい虫なのかと思いきや、その正体は体調1ミリほどの小さな虫です。こんなに小さな虫が大きなブドウの木を枯らしてしまうなんて、少し不思議ですよね。

フィロキセラが広まった原因は、品種改良のためにヨーロッパに持ち込んだアメリカのブドウの木でした。アメリカのブドウの木についていたフィロキセラがヨーロッパのブドウの木に寄生し、フィロキセラに対する抵抗力のないヨーロッパのブドウの木は次々と枯れていったのです。

フィロキセラは元々アメリカ大陸に生息していましたが、不思議なことにアメリカではブドウの木に寄生することはありませんでした。そのため、アメリカにあるブドウの木をヨーロッパに持ち込むと害虫が発生するとは誰も思わなかったのでしょう。

フィロキセラに感染したブドウはどうなるの?

フィロキセラはブドウの根や葉に寄生します。一度寄生されてしまうと、ブドウの木にはコブのようなものができ、根ごとダメになってしまいます。ブドウの根に寄生したフィロキセラは、木にとって大切な樹液を吸い、栄養を蓄えているのです。

フィロキセラが寄生して樹液を吸い取られた木は、開花不良を起こしブドウの実がならなくなってしまいます。葉も焼けただれたようになり、色味も悪くなっていきます。

フィロキセラが寄生すると、このようにブドウの木は少しずつ異変を起こし、徐々に枯れていきます。フィロキセラに寄生されて姿を変えていくブドウの木を見るのは、フランスの人々にはとても辛いことだったでしょう。

しかし、ワイン造りをここでやめるわけにはいきません。「どうにかしてブドウの木を生き返らせなければ」と、人々は立ち上がります。

フィロキセラの撃退法はない!?人々はどう戦ったのか

ワインの歴史を変えた!?ブドウの天敵!害虫「フィロキセラ」の恐ろしさ

虫ならば薬で退治すれば良い!と考えてしまうかもしれませんが、フィロキセラは簡単に駆除できない厄介な害虫でした。

何せフィロキセラの寄生先は土の中にある木の根元。他の感染症や害虫とは違い、外からの攻撃が届きにくいです。そのため、科学や技術が発展した現代でも、フィロキセラが寄生してしまったあとの駆除は困難とされています。

しかし、今でもブドウは生きていますし、おいしいワインは造られています。19世紀に生きた人々は、どうやってフィロキセラと戦い、どのようにしてブドウの木を取り戻したのでしょうか。詳しくみていきましょう。

新たな寄生を阻止する

ブドウの木をフィロキセラから守るための対策として編み出されたのは、「接ぎ木」による寄生の阻止でした。接ぎ木とは、人為的に切断した2つの木を継ぎ合わせて1つの木にする技術です。

この時、土台になる木を台木、上にする木を穂木といいます。フィロキセラの防虫のための接ぎ木では、穂木をヨーロッパ系のブドウの木、台木にはフィロキセラが寄生しないアメリカ系のブドウの木を使用しました。

フィロキセラは根本に寄生する害虫ですので、根元の部分をフィロキセラに寄生されないアメリカ系の木にしてしまうことで問題は解決されました。フィロキセラは元々アメリカにいたこと、アメリカではフィロキセラの害が及ばなかったことからこの対策が考案されたというのはすごいことですよね。

これによって、防除や害虫駆除のための農薬を使うことなく、安心・安全な方法でフィロキセラからブドウを守ることができたのです。

フィロキセラの被害が及んでいない生産地

一方、チリ、アルゼンチン、オーストラリアなどの国の一部には、フィロキセラの被害が及んでいません。今でもフィロキセラが持ち込まれないよう、最大限に警戒しながら自根でブドウを栽培しているところもあります。

自根とは、接ぎ木をせずに育てているブドウのことをいいます。現在、自根でブドウの木を栽培できるのは、フィロキセラが寄りつかない砂地のブドウ畑だけです。

そんな自根のブドウからできたワインが栽培されている地域の中で、特に注目したいのがチリワイン。近年ではリーズナブルに本格的なワインが楽しめると日本でも大人気ですよね。

チリは地理的に孤立しているため害虫の侵入を受けにくく、夏の降水量がきわめて少なく乾燥している気候により、フィロキセラの被害を受けていない世界でも唯一の国です。また、チリの気候や風土は、フィロキセラだけではなく他の病害虫も寄せつけにくく、農薬の使用を極力抑えたブドウ栽培が可能になっています。チリ国内で2013年から4年連続シェアNO.1を誇る「サンタ・リタ」も、自然と共存したワイン造りをしているワイナリーの1つ。

ワインの歴史を変えた!?ブドウの天敵!害虫「フィロキセラ」の恐ろしさ

このサンタ・リタ・グループの畑で、フィロキセラの被害にあって150年前に絶滅したと思われていたフランス ボルドーの「カルメネール」というブドウ品種が発見されました。長くメルロー種と勘違いされていたのですが、1994年にフランスから訪問していた専門家により再発見されたのです。カルメネール種は、まさに幻の品種といえますね。

サンタ・リタが造るワインの中で、注目したいのが「120(シェント・ベインテ)」。チリは2018年に建国200年を迎えます。120という名称は、建国のために戦った英雄120名に由来しています。彼らをかくまった場所が、後にサンタ・リタ社となるワインセラーだったという歴史的エピソードが残されています。

ワインの歴史を変えた!?ブドウの天敵!害虫「フィロキセラ」の恐ろしさ

幻のブドウ品種と呼ばれ、今ではチリを代表する品種であるカルメネール種の味わいも、このシリーズで堪能できますよ。サンタ・リタの奥深いワインをぜひお試しください。

【サンタ・リタ特集】
http://www.sapporobeer.jp/wine/wine_opener/article/santa_rita/


まとめ

フランスのみならず、全世界で多くのブドウの木を失うこととなったフィロキセラという虫による害。現代でもフィロキセラが寄生した木の回復は難しいとのことですから、19世紀当時のブドウ栽培者たちは相当苦労をして接ぎ木の技術を編み出したことでしょう。

少しずつ枯れていくブドウの木を見なければならないなんて、本当に悲しいことですよね。

そして、接ぎ木をしなくてもフィロキセラを寄せつけない地域がありました。今でも自根でブドウの栽培をしているチリもその1つ。中でも注目しておきたいワイナリーが「サンタ・リタ」。フィロキセラの害でフランスでは絶滅してしまったと考えられていたカルメネール種が、サンタ・リタ・グループの畑で再発見されました。

デイリーからちょっとスペシャルな日まで。サンタ・リタの「120(シェント・ベインテ)」を是非一度味わってみてください。