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ホップ抽出物でアルツハイマー病の発症を抑えることに成功-認知症の発症と進行の予防につながると期待-

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2014年1月30日

ホップエキスのアルツハイマー予防効果

概要
 垣塚彰 京都大学大学院生命科学研究科教授、笹岡紀男 同研究員らの研究グループは、ホップの抽出物がアルツハイマー病の発症を抑える効果をもつことを、アルツハイマー病モデルマウスを用いて明らかにしました。本研究は、同薬学研究科竹本佳司教授らと共同で行ったもので、本研究成果は、米国open access科学誌「PLoS ONE」に掲載されました。

1.背景
 厚生労働省の調査によると国内の認知症患者は2012年の時点で約460万人にのぼることが判明しており(昨年6月1日の読売新聞の発表では、65歳以上の日本人の約15%が罹患)、そのうちの半数以上がアルツハイマー病であると考えられています。また、今後超後期高齢化社会に突入することにより認知症の患者数は益々増加することが予測されています。
アルツハイマー病の主な原因として、脳内において産生されるアミロイドβ(Aβ)と呼ばれる蛋白質の断片が凝集、沈着することで神経細胞死を引き起こし、記憶、学習能力の低下を招くと考えられています(アミロイド仮説1)。健康なヒトでも40代からAβの蓄積が始まると言われています。Aβ産生ではγセクレターゼ2という酵素が主要な役割を担っており、世界中の製薬会社で、この酵素の阻害薬の研究開発がなされてきました。しかしながら、患者への投与では治療効果が確認されず、未だ認可されるに至っていません。この結果は、完全にアルツハイマー病になってしまってからの治療は、極めて難しいことを示しています。

 そこで本研究では、アルツハイマー病の発症及び進行の予防という視点から研究を行いました。具体的には、既に安全性が確立されている漢方薬の原料となっている植物エキスに着目し、その中からγセクレターゼの活性を低下させるものを同定し、アルツハイマー病モデルマウスに投与することでアルツハイマー病の発症予防効果を検討しました。

2.研究手法・成果
 まず、本研究では、簡便にγセクレターゼの活性を測定するアッセイ系の構築を行いました。このアッセイ系では、γセクレターゼの活性をルシフェラーゼの活性に変換する方法を考案しました。Aβの前駆体タンパク質APP(amyloid precursor protein)3にGal4VP16という転写因子4を結合させたタンパク質を培養細胞に発現させ、APPがγセクレターゼにより切断を受けると、ルシフェラーゼ蛋白質5が作り出されるという評価系です(図1)。培地に評価する物質を加えた後、細胞溶解液を作製し、それに含まれるルシフェラーゼの活性を測定することでγセクレターゼの酵素活性を簡便に評価することが可能となりました。
この評価系を用いて、漢方薬の原材料を中心に約1,600種類の植物エキスをスクリーニングし、その中でγセクレターゼ活性を最も強く抑制できるものとしてホップの雌株の球花(きゅうか)(図2)のエキス(以下、ホップエキス)(生薬名:啤酒花(ひしゅか))を同定しました。

 また、ホップエキス中の阻害活性をもつ主要成分を精製し、その構造をNMRで決定し、それがGarcinielliptone HCと呼ばれている物質であることを明らかにしました(本成分は、ビールにはほとんど含まれませんので、ビールの摂取にアルツハイマー病予防効果は期待できません)。啤酒花は、中国では健胃薬、鎮痛薬として使用されていました。
近年、女性ホルモン用の作用があることが明らかになり、更年期障害の治療にも使用されていますが、妊婦が大量に摂取することは好ましく無いと推測されています。また、欧米ではハーブとして不眠の改善、生活習慣病の予防等にも用いられています。

 本研究では、新たにアルツハイマー病モデルマウス(ADマウス)を作製し、ホップエキス2gを1リットルの水に溶かし、アルツハイマー病発症前の若齢期から、水の代わりに自由に飲めるようにしました。Morrisの水迷路6を用いた行動実験の結果より、ホップエキスを摂取していないADマウスでは9ヶ月齢から記憶・学習能力に低下がみられましたが、ホップエキスを摂取したADマウスでは記憶・学習能力の低下が観察されたのが15ヶ月齢以降となり、アルツハイマー病の発症が顕著に遅延することが判明しました(図3)。また、18ヶ月齢の高齢のADマウスでは、不安行動の欠落(情緒異常)が認められましたが、ホップエキスを摂取したADマウスでは、このような情緒異常は観察されませんでした。
 
 さらに、脳内Aβの蓄積を調べた染色結果においても、ホップエキス摂取ADマウスは非摂取ADマウスと比較して有意にAβの沈着が減少していました。これらの結果より、ホップエキスはγセクレターゼ活性を抑制し、Aβの産生を抑制することで、ADマウスの発症を大幅に遅延させる効果をもつことが明らかになりました。

3.波及効果
 本研究によって、ホップエキスに今まで知られていなかったアルツハイマー病に対する発症予防効果が認められたことで、今後益々増加することが予想されるアルツハイマー病の発症および進行を予防できる製品の開発に繋がることが期待できます。さらに、本研究で構築したγセクレターゼ活性の評価系によって、漢方薬、健康食品、サプリメント等において、アルツハイマー病予防活性という視点からの品質管理が可能となり、より有効性の高い製品の提供が行えることが期待できます。

4.今後の予定
 本研究により、ホップエキスにアルツハイマー病の発症を予防・遅延させる効果があることが判明しました。今後、サッポロビール株式会社では、この成果に基づく知財権のライセンシングを受け、長年のホップ育種、加工・利用技術、および分析技術を生かし、ホップエキスを含有する商品の上市を目指します。

<用語解説>
1.アミロイド仮説:アルツハイマー病の発症機序に関する現在最も信じられている仮説。まず、神経細胞で産生されたAβの凝集・蓄積がおこり老人斑が形成される。続いて、神経細胞内でタウ蛋白質の凝集が誘導され神経原繊維変化が起こり、結果的に神経細胞が死滅し、アルツハイマー病が発症するという仮説。遺伝性アルツハイマー病の患者全てで、凝集性の高いAβが産生されていること、アルツハイマー病になりにくい家系でAβの産生が抑制されていること等の臨床データと合致することにより支持されている。

2.γセクレターゼ:膜蛋白質を細胞膜の中で切断する酵素(複合体で作用する)。アミロイド前駆体タンパク質からのAβの切り出しの最終段階を担う。この酵素の主要構成蛋白質の遺伝子変異も家族性アルツハイマー病の原因となる。また、生物の発生や細胞の分化に重要な役割を果たすNotchと呼ばれる膜蛋白質の切断にも関与している。

3.APP(amyloid precursor protein: アミロイド前駆体タンパク質):一回膜貫通型の蛋白質。神経細胞に強く発現するがその機能はよく解っていない。βセクレターゼとγセクレターゼによって切断を受けることによってAβが産生される(図1)。

4.Gal4VP16:酵母の転写因子であるGal4のDNA結合領域とHerpes simplex virus由来の転写活性化ドメインVP16を融合したタンパク質。転写研究領域で汎用される強力な転写因子である。

5.ルシフェラーゼ:ホタルや発光細菌などの、生物発光を触媒する酵素。ルシフェラーゼは基質であるルシフェリンとATPを利用して発光する。酵素の量と発光量が比例するため、発光量から酵素量を比較することができる。

6.Morrisの水迷路:水を入れた大きな円形プールの中に設置してある逃避台までマウスを泳がせて、空間学習の効果を測定する課題。1981年にリチャードG.モリスによって考案された。

 本研究は、厚生労働科学研究費補助金 創薬基盤推進研究事業(創薬総合推進研究事業)および科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 発展研究(SORST)の支援によって行われました。

以上

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