
小林恭二

- 作家。東京大学文学部卒業。'84年に『電話男』が第3回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。'98年、第11回三島由紀夫賞を『カブキの日』で受賞。著書に『小説伝』『俳句という愉しみ』『悪への招待状』『父』など多数。 最新作は『麻布怪談』。現在、専修大学文学部教授。
飲食店で複数のビール銘柄をあげられたときは、必ず「サッポロ」と答えることにしている。これまで理由など考えたこともなかった。たぶんこれからも理由を考えず、そう答えるのだろう。それはわたしにとってささやかな「習慣」なのだ。
しかし考えてみれば、このめまぐるしい時代に、ひとつの「習慣」を与えてくれたサッポロビールには、感謝すべきなのかもしれない。なんとなれば、そのおかげでわたしは、どんなビールが新発売になっても、心を動かさずにいられるのだから。
新しいものにはあまり心を動かされない。新しいものにも良いものがあるのは知っているが、はずれが多いことも知っている。手を出すのはいちばん後でもかまわないと思っている。自分の知っている良いもので人生を埋め尽くしてもそろそろよいかと思っている。
しかし新しいサッポロビールには驚かされた。サッポロはわたしの知っている中では古い良いものに分類されているのだが、新しくなったというそれは、ちょっとだけ前のそれより良くなっていた。このちょっとだけというのが、嬉しい。年をとったせいだろうか。













