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ホーム > お店とエリア > 近畿エリア(大阪・兵庫・京都・滋賀・奈良・和歌山) > OSAKA HOSHI 図★鑑 > 津村 記久子

TSUMURA KIKUKO 今でもこれからも人間の実感を描いていけたら。本当のことを書いたとしても、そこには救いがあると思うし、それを言い続けたい。

08 TSUMURA KIKUKO 小説家 津村 記久子


つむら きくこ
1978年大阪府生まれ。2005年『君は永遠にそいつらより若い』(『マンイーター』より改題)で第21回太宰治賞を受賞しデビュー。2009年『ポトスライムの舟』で第140回芥川賞、2013年『給水塔と亀』で第39回川端康成文学賞を受賞するなど、著書多数。


 主に大阪を舞台に、今を生きる人たちの日常や心の揺れをユーモアを交えながら描き出す小説家の津村記久子。10年以上会社員生活を続けながら小説を書き続け、専業小説家になったのは、つい最近のこと。だから、彼女の作品に登場する人物たちは、まるですぐ隣りにいる知人のような、もしくは自分自身のような、普通の職場で働く普通の人たちばかりだ。そんな人間たちが仕事で悩んだり、生きることを考えたりと、もがく姿を誠実に、一縷の希望を携えて描いていく。大阪で生まれ、現在も大阪を拠点に活動を続ける彼女に、小説に込めた思いや大阪の未来について語ってもらった。

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小説家になりたいと思っていたけれど、なられへんと思ってた。


津村さんは2005年に『君は永遠にそいつらより若い』(『マンイーター』より改題)で第21回太宰治賞を受賞して作家デビューされましたが、小説を書き始めたきっかけや作家デビューまでの経緯を教えてください。

津村 小説を書き始めたのは大学生の時から。でも、投稿などはしてなかったんですよ。ちょうど私が大学生の頃が就職氷河期だったので、小説家になりたいとは思っていたけれど、なられへんし、結局は諦めて就職したんです。仕事をし始めたら仕事で手一杯になって、小説を読む時間も書く時間もなくなりました。そうしたら、社会人になって3年ほど経った頃、ちょうど私の26歳の誕生日の前日に祖母が亡くなったんです。100歳ぐらいまでは長生きすると思っていた祖母が84歳で亡くなって、「あのおばあちゃんでも亡くなるなら、自分みたいなのは絶対死ぬわ。それなら、やりたいことをやった方がいい」と、小説の投稿を始めました。26~28歳までの3年間と決めて、それでダメならあきらめようって。投稿を始めて実質一年ほどで太宰治賞をもらったと聞くと順風満帆なスタートを切ったようにも聞こえますが、次の作品では落選したりしましたからね。そうでもないんですよ。

作家デビュー後もずっと会社員としての仕事も続けていたそうですね。

津村 私、一度目の仕事でパワハラにあって10カ月で退職し、23歳の時に再就職しているんです(※その経緯は『ポトスライムの舟』に収録された『十二月の窓辺』に書かれている)。無事、再就職できたものの、世の中の景気はよくなかったので、会社員の仕事だけじゃなく、副職として別の仕事もできればいいなと考えた時にたまたま作家デビューできただけなんで、そもそも会社を辞めるつもりはありませんでした。でも、2012年に隔月で小説を連載しながら、別で原稿用紙650枚の単行本を書かなくてはならなくなって両立できなくなって…。それで、この先どっちの仕事が成り立つかな?と思ったら小説家だったので会社を辞めたんです。結局、会社員としてはそこで10年半働きました。私みたいなのを働かせてくれて、本当にいい会社でしたね(笑)。

専業作家になってから生活は一変したんじゃないですか?

津村 会社員から文章を書く人へ肩書きが変わっただけ。天狗になれるような生活はできてもないし、むしろ慎ましくなったぐらいですよ。前は会社帰りにカフェに立ち寄って、「ケーキを食べさせてあげるからお仕事をしなさい」って自分で自分に言い聞かせつつ、1000円ぐらいのケーキセットを食べながら原稿を書いてたけど、今では自分で煎れた紅茶とパイの実とか食べてますもん(笑)。

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理不尽なことややり切れない思いを
小説という形を通して伝えていきたい。


津村さんの作品は仕事小説が多いというイメージがありますが、小説を書き出した頃から、会社員を主人公に、仕事を題材にしたものを書こうと考えていたんですか?

津村 私自身、会社員の生活は詳しいけれど、逆に他の生活は知りませんから。主人公を描く時に会社員にせざるを得ない。そもそも私は小説を書く時に主人公に特殊な人を求めていませんから、すごい大金持ちや特別な仕事に就いている人に興味がない。駅前のタワーマンションに住んでいる人なんて、ほんと、全く興味がない(笑)。そんな特別な人よりも普通の人の方が断然面白いと思っているし、普通の人のことを書こうと思ったら、だいたい会社員になりますからね。

それに加えて、登場人物たちは職場でパワハラにあった女性(『十二月の窓辺[ポトスライムの舟]に所収』)や、働かない親など家庭に問題を抱える中学生(『まともな家の子供はいない』)など、理不尽な立場に置かれた人たちや、将来への不安や人間関係などでモヤモヤとした割り切れない感情を抱いた人たちが数多く登場しますね。

津村 私は自分のエッセイの中でも、《自分は女であれ男であれ、どんな主人公の小説を書いている時にも、必ずあのやりきれなさと怒りを通過してきた人間について書いていると思う》と書いています。いわば理不尽なことについてしか書けない。それが小説を書く原動力であり、発端だったから。ちょっと立場の弱い人がどんな目に遭うのかということを書き留めて、可視化されないことを書く。それを読みやすい形——物語として読んでもらう。それを私はやりたいんだと思います。

小説で描かれるエピソードや会話にすごくリアリティを感じられる理由が分かりました。だからこそ、小説の中での登場人物の言葉や思いに対して、読む側は救われたり、背中を押してもらえるのだと思います。

津村 読者の人に、「これ、私のことじゃない」って思われながら読まれても仕方がない内容なんですよね、私の話は。だから今も会社員時代に見聞きしたことを小説の主軸にしています。今はいつそれが枯渇するかが怖いといえば怖い。でも、会社員の時に思っていたことや感じたことをまず忘れることはないとは思います。

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